PQ
□守るものと守られるもの
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放課後悪霊クラブ。そこは最初から数えて3番目の迷宮である意味試練でもあった。2つ目の迷宮、ごーこんきっさでは運命の相手を見つけるというアホくさいものを続け、ゴールをしたらシャドウが出現し番人との戦いになった。
ごーこんきっさは中が明るく気が抜けるようなものだった。だからそれからのこの放課後悪霊クラブは刺激が強すぎるのだろう。
ーーー心霊などが大嫌いな人にとっては。
「ひゃああああ!」
「わぁああっ!」
後ろから甲高い悲鳴がいくつもあがる。ここの迷宮はいわゆるお化け屋敷のようなもので、まぁ出てくるシャドウはお化けのレベルを越えた本物ばかりで特に女子の悲鳴があちこちで聞こえていた。
男子勢はほとんどが平気なのだろう。悲鳴に対してなにも感じていないようで黙々と歩いている。
アイギスと天城はこういうのが苦手というわけではないらしい。アイギスはロボットだから恐いと感じていないし、天城はむしろ楽しんでいる。
恐いのを必死に隠す姉さんや白鐘。見えないがナビをしている二人も恐いのだろう。声をかけてくると必ず声が震えている。
そして。隠していると全くわからない人が1人。ひたすら前に進んでいるが、赤ん坊のシャドウが出たりするとみんなそちらに意識がいくので気付かれないようだが俺にはバレバレだった。シャドウが上から落ちてくるたび息が止まり、ワンテンポ動きが遅い。
何もいないようなので休憩、と総司の声がかかりそれぞれが休憩を取り始めるなか、俺は1人で座り込むその人のもとへ近づいた。
「大丈夫ですか」
「………純也」
その人ーーー湊さんは俺の顔を見るなり深く息を吐いた。いつ出てくるかわからない赤ん坊のシャドウが怖くてしかたがないのだろう。冷や汗をかいているのか息が荒い。女子にとって恐怖の迷宮も、湊さんにとってもかなり恐怖であるらしい。
中学の時も夜の学校へ忍び込んだとき、震えているくらいだからこんなリアリティーがあるものが目の前に現れたら恐いに決まっているな。
カタカタと小さく震えている湊さんの隣にお邪魔して座る。俺は特に恐いとは思っていないので平常だ。少しでも安心してくれれば、といつもより近い場所に座れば逆に密着された。
「純也は恐くないの…」
「全然。前も言ったでしょう。心霊とかは信じてないって。それにあれはFOEだし、元はシャドウだからなんとも思わない」
「……カッコ悪いなぁ」
「……別にいいんじゃないですか。男でも恐いものはあるでしょう。俺はこれくらい弱点があってくれると嬉しいな」
「……純也」
「はい」
「なんとか、して」
「流石にFOEを倒すなんて無理だし…」
「………。」
体を預け膝を抱えて俯く湊さんに何とかしてやりたいとは思う。だが言った通り俺たちのレベルでは到底無理だ。
ならば、俺にできることと言えばこれくらいしかない。
手を伸ばして湊さんの頭に乗せた。こんなことガラではないけれどこの人のためならばやってやろうじゃないか。
「湊さん、えらいえらい」
「……え」
「あともう少し進んだら今日は終わりだから、一緒に頑張ろうな」
「……似合わない」
「言われると思った」
「でも…純也が…一緒にいてくれるなら、頑張る」
「いざとなったらしがみついても俺は構わないけど」
「それは……帰ってから、ね」
「うん。頑張ろう。もう一息だ」
「……ん」
さっきよりは落ち着いたみたいで、それを見計らったように総司から探索再開の声がかかった。不意に総司と目が合いふっと笑みを浮かべる。どうやらあいつも湊さんのことに気づいて落ち着くまで待っていてくれたらしい。
「さ、行こう」
「……うん」
立ち上がって湊さんに手を差しのべる。ぎゅ、と強く握られ立たせてあげて背中を向ければ肩に額が当てられる。なにかと肩越しに振り返れば湊さんは顔を見せないまま小声で「ありがと、」と呟き先頭にいる総司のもとへ走っていった。
「……少しは元気になったみてぇだな」
「なんだ…気づいてたんだ、荒垣さん」
「近くにいて度々悲鳴をあげられたらそりゃな」
「……なるほどね」
そういえば荒垣さん、ずっと湊さんの近くにいたなと思い出す。本当に小さな声で悲鳴をあげていたらしい。
それにしても荒垣さんが心配していたことを自分から言うとは珍しい。じっと見つめれば頭を軽く叩かれた。
「痛い」
「見すぎだバァカ」
「いや、荒垣さんにしては珍しいなーと」
「悪いか」
「全然。これからも湊さんのこと見ててくれると俺は安心なんだけど」
「ふざけたこと抜かすんじゃねえよ。お前に嫉妬されんのはごめんだ」
「はは、それもそうだ」
再び聞こえてくる悲鳴。苦笑しながら少し離れた先にいるメンバーたちを追いかけた。
end
(ひぃやぁあああ!!)
(悪霊退散んんん!)
(ぶ、ふふ、千枝、それ肉ガムっ…それじゃ退散しないからっ…!)
(笑ってないで助けてよ雪子ーー!)