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異世界のペルソナ使いたちと出会い、一緒に戦うようになってからどれくらいの時間が過ぎたのか俺たちに知るすべは無かった。

それは構わない。外でどれだけの時間が過ぎたのか分からないのは難点だがそこまで大きな時間が過ぎていないと信じている。

さて、共に戦う仲間がたくさん増えて戦力も多くなったこのとき、俺たちはごーこんきっさという迷宮を探索していた。ここにもきっと番人がいる。それはナビ担当のりせと山岸さんが言っていたから間違えていないと思う。

探索は順調に進んでいた。FOEもなんとか遭遇しないよう勉強に関しては無いに等しい頭を使って案を出し合い切り抜けた。敵も倒しながら進んでいるし、壁も抜け道があるから問題ない。

問題ない。はずだったんだが、問題が起きてしまった。


「なんだ、この地図は…」


呆然とした様子で、やっとの思いで言葉を絞り出した美鶴さんの手には手帳が握られている。あれは最初に善から貰ったもので俺たちはあれにマッピングをすることで地図の形を覚えて探索を進めていた。

マッピングをしていたのはリーダーの相棒で、丁寧でマメな性格のあいつなら問題ないと安心しきっていた。でも、それがいけなかったらしい。

総司が書き込んでいたマップを偶然近くにいた美鶴さんが覗き込んだ。そしたら息をのみ、勢いよく相棒から手帳を奪い取ってさっきの場面に戻るわけだ。

プルプルと震え始めた美鶴さんに危険を感じた俺は静かにそばを離れる。マッピングは大事なことだ。それはわかる。

でも相棒の地図の取り方は…その、汚かった。時折抜けてる場所もあるし、菜々子ちゃんの名前が書いてあったりとそりゃあ美鶴さんも怒るよなぁと一人で納得。恋しいのがわからないわけではないけれど、手帳に書き込まなくてもいいんじゃないかと思うぞ相棒よ。


「……有里、お前マッピングはしているか?」

「全然です」

「……他にしてる人はいるか?」


美鶴さんの問いに答える人はいなかった。まさか、相棒があそこまでマッピングがヘタなんて俺も思ってなかったんだ。

この状況に誰もが青ざめる中、一人だけ黙々となにかを書いているやつがいた。美鶴さんの怒気に圧倒されず、慣れた様子で彼女の怒りをスルーしているそいつはペンを右手にもって左手にはメモ帳のようなものがある。
時々、目をあちこちへ動かしているのを見てまさかと思う。ゆっくり、こっそりと横から覗き込んでみる。


「か、書いてる」

「あ?」

「ヒィッ」


低い声に情けない声を出してしまった。だけどこんなのまだましな方で、気を取り直してもう一度覗き込む。そこに書いてあったのは、今しがた問題になっているマッピングだった。
抜け道、FOE、宝箱等々大事な道標や何か気になるものがあったとことか、細かく書き出されていた。相棒には失礼だがすごくきれいだ。


「み、美鶴サーン…」

「なんだ」

「これ」

「ちょ」


すまんと心の中で謝り手の中にあるメモ帳を半ば奪い取るような形で取り上げて美鶴さんに渡した。ギッ、殺されそうな勢いで睨まれて顔が青ざめる。忘れてたけどこいつ美鶴さんの弟だったな…。恐怖に震える俺を他所にその地図を見て美鶴さんの中から怒気が消えていくのを感じた。


「ブリリアント! 実に素晴らしい地図だ…」

「ぶ、ぶり…?」

「うわ、ひっさびさに聞くとスゴいわ。いろんな意味で」

「どれどれ」


ひょこ、と美鶴さんの横に来た湊が地図を覗き見た。そんな二人に夢中だったわけだけど、ハッとしてメモ帳を取られた純也を見ればペンを右手に持っていて奪われたメモ帳をまだ持っているような手をしていた。

本当に聞き取りにくいけど、小さい声で「やめ、」とか「違う」とかボソボソ呟いている。


「お、おい……、?」


明らかに少し混乱している純也を落ち着かせようと体に触れたら尋常じゃないほど震えていた。心なしか顔も赤い気がするし、体温も低い。額に手を当てても熱がある訳じゃなさそうで、これは極度の緊張をしているという答えが出た。
回りに聞こえない程度の声で聞いてみる。


「大丈夫か?」

「……へ、平気だ」

「クゥン」

「うぉ、コロマルか」


純也の異変に気づいたコロマルが悲しそうな声で鳴きながら足にすり寄ってくる。何度も同じことを繰り返し、純也は少ししゃがみこんで白い毛並みを優しく撫でた。


「これは君が書いたのか?」

「……前、後ろから総司のマッピングを見たら…その、不安になってつい」

「これからは純也が地図を書くべきだな」

「は? リーダーの役目だろ、それは」

「じゃあリーダー命令。地図を書いてくれ」

「……わか、た」


メモを返され、突然任された重大な役目に純也はため息をつくわけでもなく、さっきのように震えるわけでもなく、ただメモ帳を見つめていた。


「(名前、呼ばないな)」


ふと、思い出す。この世界に来てからというものの、月高のメンバーは誰一人として純也の名前を呼んでいない。現状を受け入れられてないということは分かる。

だからって、一度も名前を呼んでもらえないっているのは…


「(俺でも、辛いっていうのに)」


泣き言も言わない。表情にも出さない。行動にも見えない。


「(あいつは、何を思っているんだ?)」


無言で再びマッピングを始めた純也を、俺は隣で静かに見ていた。






end
(ルサンチマンの不安)

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