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それはあなた様次第です。


エリザベスから言われた言葉が頭の中で何度も繰り返される。悶々と、どうすればいいのか分からず、そんな俺を知らず(誰にも言ってないから当たり前だが)探索は進んでいく。頭の中は先輩たちのことばかり考えていてみんなの会話など耳に入ってこなかった。幸いなのは、無意識にきちんと地図を書いていたことだ。

突然書いてくれと任されたマッピング。なんて重要な役を押し付けてくれたものだ、総司は。まさかこんなので姉さんのブリリアントが聞けるとは思ってなくて内心驚いた。

視界に入ったFOEの場所をさっさと忘れないうちに記入し、さらにどんな動きをするのかもメモしておく。
任されてそれを担った以上適当にやるわけにはいかない。時々襲ってくるシャドウは陽介や総司の後ろに隠れてやり過ごし(そのたび二人から戦え!と怒鳴られたが)責務はこなした(多分)。

さて、あとどれだけ進めば階段があって抜け道があって行き止まりがあるのか。わからないことだらけの迷宮に翻弄されながら仲間と共に手探りで進んでいくのは言ってはいけないんだろうがとても楽しい。今まではなかった感覚で、少し浮かれている中心の片隅では姉さんたちのことが気になって仕方がない。


「(どう、接したものか)」


何度か話しかけようとしたけど、いざその時になると躊躇ってしまう。名前の呼び方も、どうすればよいのか。
先輩、同い年のせいか違和感がある。だけど実際は2歳も離れている。姉さん。…馴れ馴れしすぎだ。流石に。

回りが気にならないほど考え込んだ。はぐれてはいないから大丈夫だ。戦闘も程々にやっている。

まだ、焦る必要もない。いつも通りに過ごせばいい。


「センパーイ聞いてるんかよ」

「は……っひ、」


と、メモ帳を見つめていた視界に突然入ってきた怖い顔に反射的に拳を叩き込んだ。



「フグォッ!?」

「あ"っ」


また声にならない悲鳴をあげて思わずしゃがみこんだ。誰かを殴った手が痛い。なに今の、なんだ今のは。いきなり俺の視界に入らないでほしい。心臓が跳び跳ねて爆発してしまいそうだ。胸元を握りしめてバクバク言っている心臓を静めようとしゃがみこんだまま俯く。


「な、なに今の音!」

「敵襲か?」

「って…あれ? 完二くん何してるの? サボり?」

「ち、違う…先輩に殴られ、いって、」


恐る恐る顔を上げれば床に尻餅をついて顔を真っ赤にして鼻を押さえる巽の姿があった。多分さっきの拳は鼻にモロに入ったんだと思う。というか、さっきの巽だったのか、恐い。


「す、すまん巽…」

「……っス」


なんとか巽に謝ると、呆れた顔で総司がやって来て武器を左手に持ちかえ右手を差し出してきた。立て、ということか。


「二人して遊ぶな」

「俺はマッピングしてただけなのに…」

「俺、話振っても答えない先輩に声かけただけなのに…」

「悪い…夢中になりすぎた」

「とかいって本当は考え事してたんだろ。ほら、手貸すから立って」

「無理…」

「腰が抜けたのか?」

「心臓が痛くて無理…」

「……そうか」

「なーにそれ、あははっ純也ってば相変わらずへ変なこと言うよね!」


場の緊張が一気に解けた瞬間だった。
まだ心臓が痛い。バクバクいってて止まらない。だけど緊張は少しだけマシになったような、そんな気はする。
八高メンバーはみんな俺や巽を見て笑っている。月高は苦笑いだ。まぁ、元々仲がいい仲良しの集まりではなく目的が一致しているから一緒に暮らしているメンバーだから、あまりこういう風な笑いは出てこない。

どこか温度差を感じて、心臓が締め付けられた。





end
(正義の苦しみ)

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