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女子たちが待ち望んでいた、総司の運命の相手が発覚するなりその相手と共に総司は抜けた床に落ちていった。


「そ、総司ィイイイ!!」


陽介の声が木霊して響き渡る。床は静かに閉じて、静寂が訪れた。


「え、えっとぉー…まさか…」

「し、衝撃的ですね…これは」


誰もが真実から目を背けたくなっている。いや、もう背けているだろう。
総司と共に消えたのは、残念ながら予想を反した人物だった。残念ながら、女子ではなかった。あまりの出来事に俺も頭の整理がつかず、持っていた鎌をがしゃんと床に落とした。

落ちていったのは。何でだよぉお!と叫びながら落とされたのは。


「クマー。カンジが運命の相手なんて予想できなかったクマね」


巽だった。まさかの男で、しかも巽で。
そういえばアミグルミがどうのこうのという質問があったなぁ。あれが決定だったのだろうか。クマの言う通り、誰も予想していない結果だった。しばらくのあいだ呆然としていたが。


「あぁ、よかった…」


ボソッと聞こえてきた声に、首をかしげた。


《あ、あれ? 通信が遮られてるのかな。先輩たちに繋がらないよ!》

「え、それってヤバくね?」

「急がないとやられる可能性がある。この先はもう番人のいる階みたいだからな」

「その前に運命の相手が確定しちゃったから何かあるとか…?」

「「………。」」

「……けっ…こん…?」

「イイイヤァアアアアアあいぼぉおおおお!!」

「お前さっきからうるさい。黙れ」

「純也がやたらと冷たい! いつにも増して冷たい!!」

「暴力的に黙らせた方がいい?」

「い、いえ」


総司が巽とそういうことになったから、陽介がやたらと騒ぐ。召喚器を見せつけて脅してやればやっと黙ってくれて、だけど「あいぼぉお…」と情けない声を出し、顔を青くしている。


「もし迷宮の主がいたら大変だ。急ごう」

「そうですね」

「ほら、サブリーダーが指示を出したぞ。いつまでもぶつぶつ言ってないで立て」

「あいぼぉお…」

「花村ってこんなに相棒バカだったっけ?」

「さぁ?」

「ほっとけ」


動かない陽介の背中を力の限り殴ってやればようやく意識が戻ってきた。この迷宮にきてからというものの、どこかのネジがぶっとんでいる気がする。みんな。

階段を下り終えると、無数の花が咲き乱れ、真ん中に道らしき道がある場所にたどり着いた。どうやらここが最下層らしい…が。肝心の総司と巽が見当たらない。


「これは…?」

「なにこれ、まるでバージンロードみたい」

「バージン、ロード…だと…!」

「姿が見当たらないと言うことは、二人はまだ先にいるということだな」

「そうですね。行ってみましょう!」

「ワンッ!」


一見華やかな道に見えるが、奥から感じる気配はとても嫌なものだ。この気配は、ハートの女王と同じ禍々しいもの。総司と巽が二人で勝てる相手ではない。


『祈りナ・サーイ
誓いナ・サーイ
病めるトキモー?Huu!
健やかなるトキモー?Hoo!
神ノー?御許ヘー?
You・shall・die!!』


妙にテンションの高い声が聞こえてきた。台詞から考えて、そして途中見て見ぬふりをした合成写真から推測すると、どうやらここは教会で、なら中にいるのは神父だろう。あとは新郎新婦。


「あ、あ、相棒おおお!!」

「ウルサイ…」

「陽介!? みんなも来てくれたのか!」

「センパーイ!」

「巽くんも無事みたいですね」

「よかった!」


陽介が突進する勢いでドアを開ければ二人はいた。その奥には周りにいくつもの棺桶を浮かせ、手には教典を持ち、腕が四本もあるシャドウがいた。どうやらやつがこのごーこんきっさのボスらしかった。


「(…気持ち悪い)」


不思議の国でも感じた、この嫌な何かにさらに胸がざわめく。それぞれが戦闘体勢に入るなか、召喚器を強く握りしめ、込み上げてくる何かを耐えて歯軋りをした。

瞬間、視界に映る黒。


《先輩危ない!!》


久慈川の焦った声が、やけに遠くに聞こえた。


『You・shall・die??』


死の音が、すぐそこに―――。


"ひとりぼっちは寂しいなぁ"


「(!?)」


突然頭の中に響いてきた声は、さっきの新婦の声と同じものだった。


"せっかく会えたのに、結局はひとりぼっち"

"弱い弱い。お前は、弱い"

"ひとりじゃなにもできない"

"逃げ続けるだけ"

"か弱い"

"アリサトミナトも、キリジョウミツルも、離れていく"

"アラガキシンジロウも、サナダアキヒコも、みんな、みんな"


何度も何度も、追い詰めるように弱いと言ってくる声。心の底から込み上げてくるそれ。


『お前は、よわ"―――(ドコォッ!!!)びっ!?』


酷く、耳障りだった。
声が聞こえている間は、時が流れなかったのか俺の体に傷はなかった。
神父の体は部屋の奥まで吹っ飛んで、壁にぶつかって止まった。


「ふぁ…純也くんすごい! 神父さん蹴り飛ばしちゃった!」

「……エ、エーット、純也サーん…?」

「人の頭の中で弱いだの、ひとりだの、本っ当に耳障りだ…」

「あ、あのー…?」

「自分が弱いことくらい、自分のシャドウと向き合った時点で分かってるっつーの!! お前みたいなのに言われる筋合いはない!! それに俺は一人じゃねえし!! 勘違いすんな!! つーか!! そんなことより!!!」


ずっと、ギリギリまで切れるのを免れていた糸が、プツリと切れたようで、ふらふらと立ち上がる神父を指差し、怒鳴って、怒りをぶつける。あぁ腹が立つ。ムカつく。何より、あんな奴が。あんな奴に!





「お前みたいな悪趣味な野郎が"先輩たち"の名前を軽々しく口にするな!! 腹が立つ!!!」





シャドウごときに、名前を呼ばれるなんて。汚れる。あぁ、ムカつく。あぁ、殺したくなる!


「落ち着いて下さいセンパイ!!」

「無闇に突っ込んだら返り討ちに合いますよ!!」

「は、早まるな!」

「離せ!!もう一発殴らせろ!!」

《先輩危険だからダメー!!》

「何があってキレたのか分かんないけど暴走だけはしないで!!」

「まだどんな攻撃をして来るかもわからないのに突っ込んじゃダメクマー! ヘタしたら死ぬかもしれないクマよ!!」

「だぁあこんな細い体のどこにこんな馬鹿力があるんだよ!!」

「悪かったな細くてぇ!!」


殴りたい。今すぐあいつを殺したいのに陽介たちが俺の体を掴んで妨害する。力の限り振り払おうと思っても、7人がかりで抑え込まれてしまってはどうしようもなかった。


『ガ、ガ…』

「! ば、番人が起きた!」

「くっ…仕方がない…! 湊!」

「えっ…」

「悪いがお前たちだけで番人を倒してくれ! 俺たちは純也を抑えとくから!」

「で、でも」

「早く!!」


なにも聞こえない。なにも見えない。
視界に映る、フラフラと立ち上がる神父の姿しか見えない。こっちに向かって歩いてくる神父を殺したくても、何かに抑えられて身動きがとれない。

誰かが神父を傷つけていく。
煮えくり返った思考はゆっくり、ゆっくりと鎮まっていき、抵抗する力を抜いていき、ただ番人が死んでいくのを呆然と見ていることしかできなかった。

感情のままに発してしまった自分の言葉を思い出し、顔を青ざめた。


「(お、れは…、)」


なんて、ことを。





end
(前言撤回など出来る状況ではなかった)

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