赤の似合う君と

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『異議ありっ!その傷が動かぬ証拠よ』

「異論の余地はありません。よって……」

有罪。


検事になって初裁判から3年、彼女は無敗の検事だった。
疑問の余地を残さない調査と証言・証拠。それは、全く関係なさそうなところから容疑者を引き出し、巧に有罪へと導いていった。

しかし最近は、敗北の検事として名を馳せている。


彼女、若手女検事羽影雨月。
私の第二の師であり、慕う人物。
慕う…私らしくないことに、恋慕っている。


敗訴を負けと思わせない潔さと信念。正義感に溢れた女性だ。


『御剣君、裁判は勝訴がすべてじゃないわ』


狩魔検事とはまた違う指導をしてくれた。矛盾の見つけ方、証人をいかに証言台に立たせるか。


以前、羽影検事が敗れた時。最初から犯人が解っていたかの様に、真犯人を準備していて喚問した事があった。無論負けたはずなのに清々しく帰ってきた羽影検事を問い詰めた事がある。


「羽影検事!まさか、犯人が最初から解っていたのでは」

『そりゃ、解ってなかったら準備してないよ』

「ならなぜ、彼を最初から告発しなかったのか!そうすれば負けずに…っ」

『初めからあいつを告発しても、証拠が足りなかった。証言は証言台でさせなければ意味ないしね』


彼女は、灰色をすべて白にしたあげく、最も白に近かった男を黒にした。



悪を裁き、正義を善しとする彼女に憧れを抱いていた。いつの間にか変わった自分の目標のように。
それがだんだん変化して、彼女への想いが募る。


あの裁判の弁護士は、綾里千尋だった。双方激しく対立をしていたのに、息がぴったりだったのを覚えている。



綾里弁護士が亡くなってから羽影検事が沈んでいるのが解る。
誰に解らなくても、私は。
いつもより紅茶のミルクが多いとか、些細なことで気づかされる。


それほどまでに彼女を視界で追いつづけてきた私の想いを…彼女はなんというだろうか…。




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