赤の似合う君と
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『ねぇ、御剣君。デート行きたいな』
突然の言葉に"ム"とだけ返す。
『付き合ってるんだしさ。御剣君のこと、紅茶以外にも知りたい』
確かに付き合い始めて二ヶ月あまりになる。
はにかみながら、そう言われてしまった。
(デート…とはどうしたものか…)
きっと彼女のことだから、前回の法廷から塞ぎこんでいる私に気分転換でも、と思ってくれたのだろう。
が、生まれて此の方女性と出かけた事はない。
結局何も纏まらないまま当日になってしまった。
珍しく土曜に揃って休暇が取れた。この日が書類に追われない為に、ここ数日はスケジュールが過密になっていた。
待ち合わせた駅前に着いたのは30分前。自分でも早く着きすぎてしまったかと思ったのに、先客がいた。
いつもの黒いレディーススーツではなく、白いブラウスにソーダグレイのプリーツスカートを着ていた。
『あ、御剣君!』
「すまない、待たせてしまったか?」
『ううん、私が早く来過ぎたんだよ。まだ30分もあるんだよ?』
少し眩しそうに手を翳しながら近づいてきた彼女。
『…なんか、御剣君の私服新鮮だなー』
「普段は検事局でしか会わないからな。羽影検事も、その…私服、似合っている」
「可愛い」だとか、「綺麗」だとか。かける言葉はいくらでもあるのに口にできなかった。
『…ありがとう//』
それでも、頬を染めながら小さく呟かれるとこちらも照れ臭くなってしまう。
『どこ行こうか?』
「貴女の行きたいところへ連れていこう」
近くに車は止めてある。なんて思っていたら
『それは女の子の台詞。御剣君の行きたい所に連れてってよ。私を連れて行きたい所に』
と笑われてしまった。
「ム…」
行きたい所…思いつかない。
連れて行きたい所…解らない。
『ふふっ、真面目だなぁ御剣君。休日どこも行かないの?』
「休日は…裁判の書類に目を通したり、茶葉の取り寄せをしている…」
『君らしいねぇ…。じゃあ…水族館行きたい』
「水族館?」
『そう、水族館』
たった二つといえど。年上には見えないあどけない微笑みを浮かべる彼女。
「行こう」
車まで案内しながら、どこが近いのかとか、どこが喜んで貰えそうなのか。
思考を巡らす。
大して入っていない娯楽の知識から、遠足で行った水族館を思い浮かべる。
『御剣君の車ってスポーツカーなんだ…高そう…』
そう言った彼女の言葉に我に帰り、助手席のドアを開ける。
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