赤の似合う君と

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水族館だなんて。
何年ぶりだろうか。


「丁度イルカショーのようだが見に行くのか?」

『ううん、人が捌けてるうちに見て周りたい』


ひんやりとした空気と水の匂いに胸を高鳴らせて、水族館のパンフレットを片手に落ち着かない怜侍をみて微笑む。


『早く行こう?』


腕を掴んで先を進む。
小さい水槽を一つ一つ覗き込みながらあれこれと感想を述べる。


「グラスフィッシュ…?」

『透き通ってるんだよ、ほら』

「骨が見えるほどな…」


『あ、磯巾着』

「気味が悪いな」

『そう?可愛いよ?』


そして、大きな水槽にたどり着く。その中では何種類もの魚が群をなしたりしながら泳いでいた。


『いっぱいいるね…』

「食物連鎖が起きたりしないのだろうか」

『ちゃんと餌もらってるから大丈夫じゃないかな』


くすり、と思わず笑う。怜侍はいつだって怜侍だ。


「わ、笑わないで頂きたいっ!」

『馬鹿にしてるんじゃないよ、可愛いなって』

「そのようなアレは…」

『ふふっ』


掴んだままだった腕をまた引っ張って最後の水槽まで来た。

円柱状の長い、大きめな水槽にクラゲが漂っている。ほの暗い中に、ユラユラと白いクラゲが何匹も何匹も……。


「綺麗だな」

『…うん』


ここに着て怜侍は初めて肯定的なことをいった。

特に珍しいわけでもない、ミズクラゲ。だけど、凄く穏やかな気持ちになれた気がする。
 
 
 
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