赤の似合う君と

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2月20日


「出張?」

『うん。明日から3日間、高等裁判所での仕事が入ってね』


ファイルをバックに入れ終わった雨月は、私の隣に座った。


「明日は式典だろう、しかも、貴女が臨時検事だなんて」


そう。明日は申し送りや式典があるというのに。
彼女のような腕のある検事が臨時とはいえ回される筈がないのだ。


『大方私に申し送りさせたくないんでしょ。せっかく片付いた事件、ぶり返したくないんだよ』


確かに、この3年間の申し送りで彼女は必ず冤罪を見つけだしては控訴していた。しかも、判決を覆してしまう。


「検事・オブ・ザ・イアーも、貴女が受け取るべきなのに…」

『私は有罪とらないから、対象外だと思うよ』


彼女は、進んで人のやりたがらない裁判を務める。
勝ち目のないものや、恨みを買いそうなもの。だから、腕があっても上級にはなれない。


「もっとも、あんなオモチャは貴女に似合わないが…」

『形はオモチャだけど、私は君の実力認めるよ。おめでとう』

「む…」


肩に頭のせて、彼女は優しげに微笑んだ。
そして、目を伏せた。


『でも…なんだか胸騒ぎがする』

「貴女の胸騒ぎは当たるからな…恐ろしいことに」


流れる髪を撫でながら少し戯ければ、伏せていた目をあげた。


『怜侍、何かあったらすぐに連絡してね…出来たら、何もなくても連絡して欲しい』


その目が余りにも真剣で、思わず息を飲んだ。


「あぁ…」


短く答えると、彼女の唇が重なった。
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