赤の似合う君と

□11
1ページ/4ページ



『お帰りなさい』


彼女が私を見て最初に放った言葉。この一言で私はすべてを悟った。
彼女は、私の帰りを信じ待っていてくれたのだ。…何も言わずに消えた私を。


「…っ、ただいま」


声が詰まった。それは、私にあった後ろめたさがもたらしたものだった。
私は自分の答えを見つけて戻ってきた。それを、彼女も望んでいる。でも…その結果は彼女を待たせた。


『そっか。君は答えを見つけたんだね』

「今回は、御剣の協力なしで二人を救うことはできなかった…」

『そういうことか、…納得』


この事件の経緯を知り、彼女は小さく笑みをこぼした。
一年ぶりに見る笑顔は、以前と同じように優しかった。


「あの、みつるぎけんじさん!」

『…む?』

「愛しい方と再会して何か言うことはないのですか?」


彼女の期待するような瞳は"愛の言葉"とやらを望んでいるのだろうし、成歩堂の視線は"謝罪"を求めてるのだろう。


「う…ム」

『春美ちゃん、もう御剣君は私の聞きたい言葉は言ってくれたよ』

「え!ですが、"ただいま"としか…」

『うん、それが聞きたかった』


驚いた。皆がそんな顔をした。…私も含めて。


「雨月さんいいの?愛の言葉とか聞かなくて」

ニヤニヤとする真宵くんに、雨月はにこやかに頷いた。


『だって、"ただいま"ってことは御剣君が無事に帰ってきた証拠だし、私が帰る場所ってことだもの』


これで十分よ。
そういった彼女に、糸鋸刑事は頭を掻き、真宵くんは笑い、春美くんは照れ、成歩堂は複雑な顔をしていた。


「自分は帰るッス、これ以上ここにいても惚気を聞くだけみたいッスから」

「私達も終電だから帰ろっか」

「はいっ、大人の愛…しかと見させて頂きましたっ」

「じゃあ僕も帰ろうかな」

皆、ぞろぞろと病室を後にする。


"二度と泣かせるなよ"

成歩堂は小さく耳打ちして出ていった。




.
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ