赤の似合う君と

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彼は毎月絵葉書を送ってくれた。
アメリカの風景、名物、どれも私好みの絵。

そこに、文章はなかった。

いつも英語で私と彼の名前が綺麗に書かれているだけ。

もっとも、不満があるわけではない。
絵の上に文字を書くのは興醒めだし、表では足りないのだろう。

だから、私も文は書かず、自分の育てた花の写真を載せた葉書を返事にしていた。

しかし、一番楽しみにしているのは二週間に一度かかってくる電話。
14時間の時差のせいでどうしてもお互いに休日である必要があった。


土曜の夜0時、電話が鳴る。
ワンコールもしないうちに出れば、呆れたような笑いが聞こえた。


「早いな」

『だって、かかって来るって解ってるから』

「確かにそうだが…」


顔を見なくても解る。
彼は、困ったように笑みを浮かべているのだろう。


『元気にしてる?』

「ああ、順調だ。そちらは?」

『まあまあね。少し忙しいけど』

「首席検事ともなるとそうだろうな」

『デスクワークばかりで退屈よ。向いてない気がする』

「私は適任だと思うが?雨月ほど信頼できる責任者はいない」

『それが重たいの』


電話だと、どうも弱気になってしまう。顔を見られていない安心感がそうさせるのか。


「私にできることは?」

『…大丈夫、自分でなんとかしないといけないことだから』


まさか、あの人が目覚めて検事をしているなんて。
まして、あの人が私を敵視している気がするなんて。

言えるわけなかった。


「…無理はするな。力にはなれないかもしれないが、頼って欲しい。一緒に考えることくらいできる」

『…ありがとう』


電話だと、彼は強気な気がする。吃ったり、支えたりせずに断言してくれる。
それだけで十分元気がでた。


『でも本当に大丈夫。怜侍が力不足とかじゃなくて、私の管轄なんだ。何とかして見せる』

「フフッ、頼もしいな」

『…私が強くいれるのは怜侍がいるからよ。君との約束があるから』


左手の薬指を眺める。
形のない約束。
でも、何より信じられる約束。





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