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□06
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今日は、久しぶりに雨月さんと食事。
……いつも通り、ラーメン屋の屋台で。


『……』

「雨月さん、凄く落ち込んでますね」

『そりゃ落ち込むよ…今年はエクストラムーンどころかスーパームーンすら仕事で見れなかったのに』


ダンッ


『皆既月食さえ見逃すなんて!!』


台に思いっ切り握りこぶしをたたき付けて、うなだれた。
かと思えばガバッと頭をあげて


『オヤジさん、替え玉頂戴!』

「あいよっ」


お代わりをしていた。


「じゃあ、俺が誘っても…」

『急な仕事だったし、誘いの連絡を見れなかったか逆ギレしたかの二択だね』

「スーパーだかウルトラだか知らねぇが、姉ちゃん災難だったな。ほら、サービスだ」


ラーメン屋の親父さんが煮卵を半分ずつ、俺と雨月さんの丼に入れてくれた。


「なんちゃって月見だ、丼のなかに浮かぶ月もいいもんだろ?」

『親父さん、アンタ粋だね』


ここにきてやっと笑った彼女にホッとする一方。
軽く親父さんに嫉妬を覚えた。
いつもハーモニカ吹いてるだけのラーメン頭の癖に…。


『ホースケ?麺伸びるよ?』

「あ、はい!」


そんな小さなことに悶々としながら麺を啜る。
彼女は既に次の替え玉を頼んでいる。本当に良く食べる人だ。


『ご馳走さん』

「ごちそうさまでした」

「あいよ、また来てくれや」


屋台を後にして、駅まで遠回りしながら公園を歩く。
今日は曇りで、月も星も全然見えない。


『せめて十五夜、見たかったなぁ』

「来年またチャレンジしましょうよ」

『来年じゃ間に合わないかも知れないじゃん』

「何がですか?」

『……何でもない』

「え?」

『何でもないわ。馬鹿ホースケ』


むくれたような、笑ってるような、何とも言えない顔をして。
数歩先を歩く彼女。


「雨月さん。俺の特技忘れましたか」

『…嘘。解るんでしょ?』

「教えてくれないんですか」

『…絶対、笑わないでよ?』








仲秋の名月って、9月でしょ?
本当は8月の十五夜を恋人と一緒に見て、また来月も一緒に見ましょうって約束をするの。
で、9月も一緒に見れたら縁が結ばれるっていう話があるのよ。


『…今回はちょうどスーパームーンも重なってたし、なんか御利益ありそうだな、って思って』

「……」

『、なによ。柄じゃないことはわかってるよ』

「あ、いえ、その…可愛いなって」

『っ!』

「確かにロマンチックで素敵な話ですけど。俺達もう結ばれてますし…月に願わなくても、俺は雨月さんから離れる気はありませんから」

『…』

「見たければ、来年でも間に合いますって」

『っ、馬鹿ホースケ!』

「いっ!!?」


攻撃に近い体当たりを喰らって。
でも、そのまま腕は絡んでいて。


『いつの間にそんなカッコイイこと言えるようになったのよ。本当馬鹿ホースケ』

「そんなに馬鹿馬鹿いわないでくださいよ」

『うっさい』


ふい、とそっぽを向いた羽影さんが。
小さく呟いた声。


『来年、約束だからね』

「はい」







君と見たい月があるのです。








「仕事だったら仕事場まで行きますよ!」

『それはやめて』

「……そうですか」





Fin.


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