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一人になりたい、一人は寂しい。

クリスマスを一人で過ごした俺は、来たる年末に向けてそんな感想を抱いた。


本当は成歩堂さん達と過ごす予定だったのに、急に一人になりたくなって。
クリスマス会をキャンセルしたのだ。

理由は、子供っぽくて自分でも笑ってしまうけど、単に、皆が眩しすぎるから。

希月さんとユガミ検事や、彼女の友人達の会話を聞いていると死んだ親友を思い出して仕方ない。
それに、成歩堂さんとみぬきちゃんのやり取りを見ていると、母親も父親も思い出せないのが遣る瀬なくて。
そんな俺を、その輪に自然に誘ってくれる優しさが居たたまれなくなってしまったのだ。

心の不調和が聞こえたり見えたりする彼らに、こんな俺を晒してはいけない。
そう思って、賑わう街の雑踏から逃げるようにクリスマスは部屋に籠っていた。


そして、冒頭。


結局、一人を有意義に使える人間じゃ無かった俺は、

「具合が悪いなら早めに冬休みにしていいよ。よいお年を」

という成歩堂さんの優しさに再び悶絶した。
事務所の仕事始めは1月9日、今は12月26日。
2週間も一人でこの部屋に居なければならないなんて。







『ホースケ、大掃除した?』


そんな、鬱気分の波に乗っていた俺にかかってきた電話。
恋人の雨月さんからだった。

彼女は年上で鑑識の仕事をしている。毎年忙しいからクリスマスも正月も一緒に過ごせないと聞いていた。
実際、去年は2週間も早くクリスマスデートをして。次に会ったのはバレンタインの前日という、物理的には近距離恋愛、時間的には遠距離恋愛をしている彼女。

今年は12月の頭に行った流星群観測の段階で『よいお年を、よいクリスマスを。来年もよろしくね』なんて随分なお別れだったのに。


「…してないですけど。てか、どうしたんですか、急に」

『してないのね?明後日、朝からそっちいくから。掃除道具で無いもの調達しといて』

「は、え?待って、待ってください」

『ごめん、こっちもいっぱいいっぱいなの、じゃ、またね』


一方的に話して、一方的に切れた電話を眺め、暫く茫然とする。

彼女は、うちに大掃除に来るつもりなのか?


「………洗濯物とトイレ…風呂場も掃除しとかなきゃ」


見られたくないもの、幻滅されたくないもの、一通り仕舞い終えたら夕方になってた。


(洗剤、結構切れてるな…ごみ袋もない)


明日は買い物に行こう。









12月27日

(食器用洗剤、ガラスクリーナー、風呂用洗剤、漂白剤、ごみ袋…こんなもんか?)

ホームセンターの掃除用品売り場をうろうろしつつ、こんなに色んな道具や洗剤があることに驚いた。
まあ、六畳一間の1Kだし?独り暮らしだし?そんなに頻繁に掃除なんてしないからなんだけど。


(ついでだし、食器用もお風呂もスポンジ新しくしよう)


4つで100円の安いのを手に取ろうとして、隣の3つで400円のスポンジが目に入る。
赤、濃いピンク、薄いピンクで構成されたそれらは、ウサギのシルエットを型どっていた。

(どうせ汚すのに、可愛くても…)

そのまま手を伸ばして安いスポンジをカゴに入れる。
それから、暫く考えてウサギのスポンジもカゴに入れた。

(雨月さん、案外こういうの好きなんだよな)

サバサバしてるけど、結構乙女な彼女。
喜ぶかもしれない。

(お風呂のスポンジも、ヒヨコのやつ…)

そんなことを思って、洗濯洗剤や柔軟剤もいい匂いの奴を買ってみたり。
明日、大掃除とはいえ彼女と会うのを楽しみにしてる自分に気づいた。

(ちょっと前まで、一人になりたかったくせに)














12月28日

『おはよう、ホースケ!』


宣言通り、28日の朝早くから彼女はやって来た。
何度も家の前まで送ってもらったけど(彼女は車を持ってるから)家に上げるのは初めてで。
些か緊張していたのだが、


『意外と小綺麗だね。ゴミとか慌てて片付けたでしょ』

「……」

『図星?でもその片付けるプライドとか配慮っていいと思うよ。どうせ掃除するからいいや、っていうより』


本当の事だけに失礼な発言をしたあと、悪戯に優しく笑われて。
なんだか色んなものが解れてしまった。


「そりゃ、悪いとこ見られたくないですし。でもなんで急に?仕事は?」

『仕事はねー、冬休みもらったんだよ』

「え、だって取れないって」

『うん。だから、正確に言うと譲ってもらった』


今年はゴールデンウィークも出勤したしー、お盆も出たしー、クリスマスも仕事だったなー。でも誰もシフト合わせてくれなくて連休なんか全然無かったなー。
一般の研究職いこうかなー。
なんて、堂々と上司の前でぼやいたらしい。


『そしたら、今年はよく働いてくれたし、来年も頑張れるように年末年始はゆっくり休んでくれ…ってさ。他の人のシフトと交換してくれた』

「……もらったんじゃなくて、ゆすったんね」

『せめて、ねだったって言ってよ。で、ホースケに会いたいなーと思って。どうせ大掃除するならそれも二人でやれば長く一緒に居れるかなって思っただけ。嫌なら帰る』


にこやかに、可愛いことと恐いことを言う人だ。


「嫌なわけないじゃないですか。俺だって、会いたかったんですよ」


拗ねたような言い方になってしまったのか、彼女は目を丸くして俺の頭を撫でる。


『うん、ホースケならそう言ってくれると思った。さ、早く掃除終わらせて冬休みしよ?』


そう言うと、持ってきた荷物からエプロンを取り出して彼女は笑った。







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