赤の似合う君と

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……

………

孤児院から奨学金で学校に通った私に、待っていてくれる人はいなかった。
文化祭、卒業式、親が昇降口で待っていてくれるのがいつも羨ましかった。

"なんで、私だけ生きてるんだろう…"

その疑問がピークになった高校の卒業式の日。
気づいたら、橋の欄干の上に座っていた。
誰も声をかけず、遠巻きに見ているだけ。

"お母さんとお父さんと祐樹は…待っていてくれてるよね……"

欄干から飛び降りようとしたら、凄く強く抱き留められた。


"馬鹿なコトするもんじゃねぇっ"


それが、神乃木さんだった。
その時、事件が起きてから始めて泣いた。

バイトとして就職が決まっていたものの、法界へ進もうとしている事を、過去の経歴も交ぜて話した。
黙って優しく聞いてもらえるのが嬉しくて次から次へと捲し立てた。

そして、彼が弁護士だと知った。


「弁護士…」


独学で司法試験に受からなければならなくて、彼がまだ新米で仕事の少なかった一年間、教えて貰っていた。

彼に出会って一年目の春、時間が噛み合わなくなり、私は本格的に独学をする事になった。

"私の事…待っていて貰えませんか…"


『今思えば…あの人は"私が法界に入るのを待っていて欲しい"って捕らえたんだと思う』


だから、検事になった時、驚かれたんだ。


『私にとって、"待つ"っていうのはとても重い事なんだ…』

「…雨月」

『だから私は神乃木さんを待たなければならない。誰も待っていない悲しみは、私が一番知ってる』


どこか遠くを見るように、しかし何も見ていないかのようだった視線が、急に私に向いた。


『でもね、待っていて気づいたの』

「?」

『確かに私は神乃木さんに憧れているし、彼の事を待ってる。でも、恋愛感情じゃない、恩返しがしたいだけなんだ』

「…それは……」



部屋の時計が、12時を告げる。


『改めて、大好きだよ、怜侍…今年もよろしくね』

「こちらこそ…私も大好きだ、雨月…」


泣き腫らしたような瞳に吸い込まれるように、彼女の唇に自分のそれを重ねた。


お互いの淋しさを埋めるように、何度も何度も……



Fin.



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