赤の似合う君と

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「上席検事、話が」

『なんでしょうか』


退院後、地方首席検事を代理することになって。
裁判よりも事務処理が増えた。
そこに、亜内検事が一人の男を連れてきた。


「初めまして、上席検事。相談なんだが、いいかい?」


連れられてきたその男。

見間違うはずなかった。

赤いバイザーこそしているが、彼は…


『貴方は…』

「俺はゴドーだ。他の名はねぇ」

『…っ…。亜内検事ありがとうございました、話は解りましたので下がって頂いて結構です…』


二人きりになって、しばらく沈黙が流れた。


『私にも、その名で呼ばせるのですね…』

「…話は俺を検事として置いてもらう件だ。司法試験は通ってる」

『…』


静かな怒り。とでもいおうか。
受け取れるはずのない視線は冷たく突き刺さるようだたった。


『解りました…受理します。だから、貴方の目的を教えて下さい…』

「……」


彼は答えなかった。
私も何も言えなかった。
その怒りの矛先が、感じ取れてしまったから…


『ゴドー検事、これからよろしくお願いしますね』


事務的に挨拶をして、彼を見送る為に席を立つ。


「念を押すぜ、上席検事…オレはアンタと初めまして…だ。あぁ、名前を聞いてなかったな」


ぐっ、と唇を噛んだ。

どうして一人で戦おうとするの。

どうして私を頼ってくれないの。

胸の中で渦巻く言葉達は出口を探しているというのに。


『私の名前なんて…貴方には必要ないのでしょう。知らなくても問題ありませんよ』


彼が私との間に置こうとしている距離を、さらに突き放して執務室の扉を開ける。


『では、これで』


扉が閉まる音が冷たく響いた。






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