赤の似合う君と

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『やあ、成歩堂君。半年振りくらいかな?』

「あ!羽影さん、お久しぶりです!首席検事になられたとか?」

『まあね。でもお蔭様で裁判はご無沙汰だよ、腕が鈍りそうだ』


冗談混じりに肩をすくませれば、これまた久々に聞いた声。


「あら、貴女の腕前はそんなものではないでしょう?」

『……お久しぶりです、千尋さん。私など、貴女に比べればまだまだです』


真宵ちゃんの体に宿る千尋さんの声。彼女と直接言葉を交えるのは2年振り…くらいだ。


「…雨月さん、迷惑かけるわね……でも」

『ええ、ご心配なく』


口止めされるようなそぶりに、体が強張った。
もし、彼女に八つ当たりであっても、何か言えたら…。言えっこないのにそう思った。


「ありがとう。じゃあ、またね」


嗚呼。
皮肉、無力にして悍ましき嫉妬。
彼女の笑顔は残酷だ。


「あの、羽影さん…ゴドー検事って何者ですか?」

「わ、私も気になります!」


まっすぐな瞳の成歩堂君と真宵ちゃん。私が答えるべきではないのだろう。
千尋さんが話さないのだから。


『腕のいい検事だよ。コーヒー好きのね』


(それは十分解ったよ!)

っていいたげな成歩堂君のカッターシャツはコーヒー色に染まっていた。
なんだか可笑しくて、笑いを噛み殺しながら続ける。


『君は正面から立ち向かうといい。真実はいつもすぐ近くにあるのに見えないものだから』


ますます解らないという顔の彼らに、ヒラヒラと手を振って背を向けた。

















「上席検事はまるほどうとナカヨシみたいだな」

『…初裁判、敗訴おめでとうございます』

「クッ…連れないコネコちゃんだぜ」


そのあとすぐにすれ違った彼。背中同士、振り向くこともなく会話を繋ぐ。


『どっちがですか』


言わなければよかった。

彼からすれば、私は、待っていなかった、弁護士の敵の検事。
連れないのは私の方だ。


「…どっち、だろうな」

『…っ』


いたたまれなくなって足早にその場を後にした。
彼は振り向いてこちらを睨んでいるかもしれない。
無視して進んでいくかもしれない。

どちらも怖かった。

私だって悪い。

でも、その瞼の裏に、私の残像を残して欲しいと思うのは…


我が儘?






Fin.
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