赤の似合う君と

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『はあ…』


結局。あの手紙には何の痕跡もなかった。
筆跡もデータがあるものじゃなかったし、インクや紙も普通に出回っているもの。

ファイルも探してはみたものの、時効切れの資料なんて保管してなくて。
倉庫まで見に行ってはみたけど、膨大な紙の束からそれらしいものは見つからなかった。



あの手紙が来て以来、家には戻っていない。新居はオートロックだし、元の部屋は引き払っているけれど。
いつ、相手が気づくのか。
これが殺人予告だったら。

そう思うとどうにも帰れなかった。


「羽影検事、顔色悪いッスよ」

『だってさ、犯人の見当も付けられないんじゃ警戒のしようさえないし。安心してられる程図太くないよ…』

「そうッスけど…悪戯とかじゃないんスか?」

『悪戯で17年前に的を絞ったあげく、私を残り一人みたいな言い方をするなんて、随分と手の込んだ悪戯だよね』

「ううっ…」


白い紙に手書きの赤文字。
筆跡を隠すことさえしないそれは、本気ということだろう。


「御剣検事には相談したッスか?」

『あと10日で帰って来るのに、急かすことはないと思ってさ』

「その10日間は執務室に寝泊まりッスか…」

『ええ。ここなら警察関係者しか入れないし、何かあっても犯人はすぐ捕まる。捕まらなければ、身内にいると断言できるから…』


正直、こんなに自分が振り回されるとは思ってなかった。
片の着いた過去の出来事だと思いたかったのに。


『糸鋸刑事、夕飯奢るから一緒に買いに行かない?』

「えっ!いいっスか?」

『一人じゃ夜に出歩く気にもならないよ』


柄にもなく怯えてる自分がいる。
せめて。彼が、怜侍が帰ってきてくれれば少しは和らぐかもしれない。
でも、彼を巻き込みたくない。


そんな葛藤を続けて。
拍子抜けするくらい何も起きずに10日間は過ぎていった。














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