赤の似合う君と
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その温もりで、自分の中の何かが切れるのがわかった。
『ごめんね…怜侍…』
堰を切るように流れ出す涙。少しの嗚咽。
「貴女が謝ることは何もないだろう?」
『だって、私のせいで怜侍にナイフが向いた…私がいない時だったら、…もし止められなかったら…っ』
しゃくりあげるような泣き声。
情けない、彼の前ではもう絶対泣きたくなかったのに。
けど、彼の前なら安心して泣くことができる。
矛盾した感情が心の中を渦巻いて、結局涙となって流れてゆく。
『怖かった…、怖かったよ…っ』
同時に溢れ出す本音を、自分では制御できなくて。
彼は呆れているかもしれない、引いているかもしれない。
それでも。
『…れい、じ…っ、よかった、無事でよかった…っ』
零れ落ちていく言葉はどこまでも本音だった。
「貴女という人は…どうしてそう優しいのだ」
力強く抱きしめられた背に、瞬間、嗚咽が止まる。
「何故自分の心配をしない…泣くほど怖かったのに、何故自分の為に泣かない!?」
『…っ、得意、でしょ?ロジック…。考えてみてよ、きっと、怜侍だって…』
やっぱり、彼は頭がいい。
私が言い終える前に答えにたどり着く。
閃いたように目を一瞬見開いて、あやすように髪を撫でられた。
「そうだな…私が貴女の立場なら同じ心配をする。自分よりも貴女の無事を喜ぶだろう」
その言葉で、また咽ぶように泣き出す。
どんなに長い距離、どんなに永い時間離れていても、私と彼は同じ気持ちを抱く事ができた。
恐怖からの解放と、彼の優しさに、涙は留まる事を知らない。
「…私は間違っていたのかもしれないな」
『え…?』
「貴女を泣かすまい誓った。勿論、私が貴女を泣かす事などあってはなるまい。だが…貴女が検事という名を外して泣ける場所に私はなりたい」
『怜侍…っ…』
「涙が涸れるまで泣きたまえ。そうしたら、いつものように笑って欲しい」
もう一度、強く抱き直された私は。彼の胸に顔を埋めて泣いた。
声を上げて泣いたのは10年ぶりくらいだろうか。
17年前の事件、千尋さんの死、神乃木さんの事、怜侍の失踪と空白の時間、今回の事件。
全部まとめて泣いた。
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