赤の似合う君と

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「寝たか」

『うん、騒いでたから興奮してるかなーと思ったけど。案外ころりと』


リビングに戻り、怜侍の隣へ座る。そして、彼のいれてくれる紅茶を飲むのが日課になっている。


「もう、小学生なのだな」

『…早いねー。ついこの前結婚した気がするのに』

「フッ、そうだな…」


新婚で二人っきり。という時期はとても短かったけれど、授かった命はそれに代わる程愛しいものだ。

それでも、払拭できないものがある。


『ねぇ、怜侍…やっぱりまだ、不安』

「私も…それは拭えきれない」


子供達には祖父母が一人もいない。
それは、私達がいざとなった時に頼れる親はいないということ。

それ以前に、私達は二人とも、10歳以降の両親からの愛を知らない。
どこか捻くれて育った私と、寂しさを堪えて育った彼。共通して、孤独感を抱えたまま大人になってしまった私達。

反抗期なんて知らないし、思春期にぶつかる親なんていなかった。

経験していない事が、目の前で次々と起こっていくのだ。


「だが、私達は一人ではない」

『…そうだけど』

「それに、二人だけでもない」

『……』

「一人娘を育てている友人がいるからな、不本意だが、頼ることもできるだろう」

『ああ、そうね』


そうだ、思春期の娘を育てている弁護士がいるじゃないか。
孫がいる裁判官や、歳の離れた妹がいる先輩だって。

『忘れそうだった。私達、二人だけじゃないんだよね』

「ああ。だが…困ったらまず、私に頼って欲しい」

『大丈夫、いつも頼ってるから。怜侍も、私に頼ってよ?』

「問題ない。貴女なしにはもう生活できないほど頼っている」


"精神的にな"


そう囁きながら、強く抱きしめられた。
子供達の前では出来ない、夜限定の秘め事。


『怜侍』


子供達の前では、名前で呼ぶ事はない。君、と呼ぶ事もない。


「…雨月」


彼も、名前では呼んでくれないし。貴女、と呼ぶこともない。

だから、つい。
名前を呼ばれるとくすぐったく感じてしまう。
それは、彼も同じようで…。


『ん…』


照れがくしのように触れた唇と、顔が見えないように強く抱きしめる腕が、それを証明する。


『怜侍、ずっと、好きでいてね』

「ああ、勿論。雨月も…」

『うん。ずっと、ずっと好きだよ』


左手薬指に輝く銀が、たとえくすんでしまっても。

部屋に飾られたバラのドライフラワーが、たとえ色褪せ散ってしまっても。



(この愛は…)


(私の愛だけは)



赤の似合う君と



(永遠に)




End.
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