TWINKLE
□03
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昨日も、今日の裁判が終わったときも。彼女の家に来ることになるなんて思いもしなかった。
『適当に座って。お茶とか持ってくる』
「いえ、お気遣いなく……」
彼女、雨月さんの部屋。すっきり片付いたリビングに通されて、ソファーに座った。
『はい、お茶。あと、これが私の趣味』
コップに揺れる緑茶と、彼女が抱えた図鑑が目に入る。
[古代生物図鑑]
まさしくだった。
彼女は俺の隣に腰を下ろして、ページを開く。
何度も見たのだろう、背表紙やページの端がボロボロだ。
『ね?こういう趣味なの。からかってたんじゃないんだよ』
「本当に好きなんですね。読み込むくらい」
『ええ。恐竜だけじゃなくて昔の生き物が好きなの』
彼女の指が、開いたページのプテラノドンをそっと撫でる。翼竜、と分類されるそれらは恐竜ではないと後から説明された。
「いいじゃないですか、古代生物、カッコイイし。俺にも教えてくださいよ」
『…変だ、って言わないの?』
「どこがですか?」
『………なんでもないよ。じゃあ、最初のページからいこうかな。アノマロカリスとか…』
彼女は楽しそうに図鑑をめくっていった。知ってる生き物や、自分の祖先の魚、奇妙な生き物。
時間はあっという間にすぎていく。
『……で、これがフタバスズキリュウ。国立科学博物館に標本があるんだ』
にこり、と今までにない楽しげな笑みで彼女は顔を上げた。
図鑑を一緒に覗き込んでいた俺とは、目と鼻の先。
「…っ//」
『顔真っ赤』
「だって!それはっ!」
『遅くなっちゃったし、送るよ。ってか私明日は仕事だからそろそろ帰ってもらわないと』
「俺の話聞く気ないですね」
『え、泊まって行きたいの?』
「ち、違…違わなくないけど違います!」
『あは、もっと赤くなった』
散々からかわれながら車の助手席に乗り込んだ。
最初の、そっけない態度とは違って明るく笑う姿を見れた。
しかも彼女の隣で。
「…今度、博物館に誘ってもいいですか?」
『何、デートのお誘い?予想以上に積極的だね』
「そんなつもりじゃ…まあ、そうなんですけど…」
『まだ一回食事しただけじゃん』
「…う」
『しかも私の独断で』
「…うう」
駅の駐車場へ車を止めて、彼女は街灯の薄明かりの中で悪戯な笑みを浮かべた。
『…今度は君の好きなところに食べに行こう。それからでいいんじゃないかな、オドロキくん?』
「は、はい!」
望みあり、と思っていいんだろうか。
いや、そう思うことにしよう。
改札まで見送ってくれた彼女は小さく手を振っていた。
(…オデコ君、随分抜け駆けしてくれたね)
(勝負ありましたね)
(まだだよ。告白して来なかったんだろ?)
(あぁっ!)
(今度は化石の歌でも書こうかな)
君の隣の夜