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デート当日、俺は事務所の皆に見送られていた。
「…オドロキ君、緊張しすぎだよ」
「そうそう、いつもみたいに元気に行かなきゃ」
「…そうなんだけど」
下手したら、法廷より緊張してるかもしれない。
私服で会うのも初めてだし、デートそのものだって初めてだ。
「もう!しのぶの誘いを断って行くんですからしっかりしてください、よっ!」
「い゛っ、希月さん痛いって!」
事務所の皆に背中を押されながら(物理的な意味でも)準備をする。
希月さんやみぬきちゃんからデートの心得だとか女心の説明を受けるも、彼女相手に通用するとは思えないものばかり。
「行ってきます」
「いってらっしゃい!告白くらいして来て下さいよ?」
「くらいって、軽くいうなよ」
結局は緊張とプレッシャーを抱えて出かけることになった。
『…あ、来た』
「すみません!待ちましたか?」
『別に。時間通りだし謝る必要ないよ』
駅前の駐車場に停まる車、雨月さんが助手席のドアを開けてくれた。
“彼女の私服、初めて見るならなんでもいいから褒めて下さい!”
そう言われた言葉を思い出して彼女を見るも、
(いつもの、コートだよな…)
仕事帰りに着ているグレーのコート。動き易さを重視する彼女の上着は薄手のもので、車中や店で脱ぐことはほとんどない。
『さて、道案内よろしく。それともお昼まだ?』
「あ、いえ大丈夫です!雨月さんは?」
『休日はブランチ派だから、私も別に』
「なら行きましょうか。まず国道に出て貰って…」
“運転中に退屈させちゃダメですよ!楽しませて下さい!”
次に言われたこと。……二人とも免許持ってないのに。
“まあ、君が運転するわけじゃないし。集中力を削がない程度に会話したらいいんじゃない?”
成歩堂さんだって運転しないじゃないか…。
『しばらく道なり?』
「はい。1時間くらいは国道をまっすぐ行って、看板を左折したらまた山沿いをまっすぐ上ります」
『なんとも単純な道順だね』
「一応、距離じゃなくて一番簡単な行き方を案内してるので」
『初めていくところだしね、助かるよ』
最初の数分こうして話した後、急に沈黙になってしまった。
『…ラジオでもつける?運転しながら会話するのはどうも苦手で』
「いえ、大丈夫です」
『そう?聞くのはできるけど、話すのはどうも注意力が散漫しちゃって』
暫くして赤信号で停まった時、彼女は早口にそう告げて。信号が青に変わったとたん、また口をつぐんでしまった。
(楽しませる、といっても集中できないんだよな)
「…じゃあ、俺が星を好きになったきっかけを話します。聞き流して貰っても構いません」
『…』
返事はなかった。
信号が赤になることもなくて、ずっと独り言みたいだったけど、それでも話し続けた。
俺がどんな人間なのか知って欲しいというのもあるし、自分からオープンに行かなければ相手が心を開くことはないと解っているから。
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