Special

□ぬくぬく
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冬生まれは寒さに強い、というのは嘘だ。
恋人の花宮真は寒波が猛威を振るう真冬に生まれたけれど。


「…無理、寒」

『や、ちょ、私の毛布取らないでよ』


かなりの寒がりだった。

冬休みのある日、お泊まりした朝である。
毛布の取り合いになるからと、1つのベッドに2枚の毛布を用意したにも関わらず。私の毛布を巻き込んでミノムシになった彼は尚も縮こまった。
暖房のタイマーをセットし忘れたために、彼は布団から出ないどころか顔が冷たい外気に触れるのも嫌がって。毛布で丸めた体を頭まで掛け布団に潜らせていく。


『よいしょ』


こんな日のためにか。ベッドサイドには布団に入ったまま届く位置にエアコンのリモコンがあり、下へ腕を伸ばせばホットカーペットの電源も入れることが出来た。
ひんやりした部屋に腕を漂わせて、両方のスイッチを入れて再び布団へ潜る。
私だって寒いのが好きな訳じゃない。
ただ、彼よりは寒さに強い方だとは思うし、寧ろ暑いよりは全然マシってだけ。


『まこと、毛布 返して』

「…」

『え、寝たふりが通用すると思ってるの?否だよ否』


沈黙する彼に小さく溜め息と、ややの身震い。
花宮真、寒がりの癖に電気毛布を使わないのだ。
熱くなりすぎて目が覚めたり、寝汗で余計冷えるのが嫌だからと、湯たんぽを愛用している。体温調節下手かよ、子供か、可愛いなコノヤロ。
と、冷えた湯たんぽを蹴り付けながら寒い思いをしてるのは私。
さすがに夜通し暖房つけてるほど電気代に余裕はないので、今この状況。


『まこと』


軽く揺すっても毛布を離さない彼に、そっと呼び掛けて。
唯一見えてる頭のてっぺんを撫でた。


『朝ごはん用意してくるから、部屋が暖まるまで寝てていいよ』


結局、私は彼に甘い。
いいんだ、私は寒くても動けるんだから、先に身支度して、コーヒーと目玉焼きでも作ってれば。
何だかんだ言って、猫みたいにモソモソと毛布から出てくる彼を見るのも好きだし。
なんて、ベッドをスルリと抜け出そうとすれば。

くんっ。

と、裾を引かれる。


『ん?』

「……」

『それで寝たふりはもっと無理あるよ、まこと』


裾を引く手は、彼しかないわけで。
けど、それ以上何も言わないし、してこない。
試しにその指先をほどこうとすれば、逆に捕まれて布団に戻される。
それどころか二人分の毛布の中に引き寄せられて、ちゃんと抱き締めてくれた。


「お前がいなきゃ、寒いだろうが」


ボソボソと耳元に落ちてくる言葉は、眠たげで、温かい。


『…ずるい』

「うるせぇ。デートはちゃんとしてやるから、部屋が暖まるまで此処に居ろ」


すり寄るような仕種に、まだ寝惚けているのだろうと思うけれど。


『わかった。デート、約束だからね』


抱き締め返して頬を撫でれば、彼は満足そうに微笑んだ。






(ぬくぬくしたまま、今日は終わっていく)











fin


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