Special

□ぽかぽか
1ページ/1ページ



約束のデートは4ヶ月後まで繰り越された。
三寒四温とか花冷えとか、そんな季節も通り越して。晩春もいいところ「今日はちょっと冷えるね」って日がなくなるまでお預けだったのだ。
桜も散ってしまって、今時期のお花見と言えばなんだろう。菜の花?藤棚?紫陽花?


「そんなに花見したかったのか」

『うーん…というより期待を裏切られた分、悔いがあると言いますか。心残りと言いますか』

「……悪かった」


まことが珍しく謝るのも当然。
冬の外出デートをことごとく不意にされて、春先になっての夜桜お花見デートの約束をしたのに。
デートの予定を合わせた日がとても冷え込んだ。
…お察しの通り、デートはドタキャン。
しかもその明朝から大雨で桜は全て散ってしまったというわけで。


「何がいい。ベコニア? ネモフィラ?それともローズガーデンか?」


彼は涼しい顔をしてるが、おそらく内心では一生懸命ご機嫌をとっている。
なあ、なあ。と、ソファで隣にぴったり座り込んで離れないあたり。本当に寒いのが嫌なだけで、デート自体はしてくれるつもりだったのだろうし、本人もしたかったんだろう。


『どれも捨てがたいなぁ。まことは?どこがいい?』

「どこでもいいが…一面のネモフィラはお前の背景に良さそうだ」

『あー、そういうのもありかな。まことは藤棚が似合いそう』

「両方いくか。藤はまだ早いだろ、今回はネモフィラな」


ネモフィラ。大きなオオイヌノフグリみたいない花。ひたち海浜公園には一面咲いてるとニュースでやっていた。
外気温に渋ることなく外出してくれる彼を見るのは半年振りか。秋以来、今やもはや初夏。

いざ公園に着いてみれば、快晴の空と青い花畑が余りに美しくて。どちらともなく手を繋いで、ゆったりと歩く。


「…ぽかぽかして、いい日だな」


そんな中。まことの口から“ぽかぽか”なんて言葉が出ると思わなくて、少し間を置いてしまった。


「…忘れろ」

『いや。忘れないけど。…そうね、ぽかぽかで、いい日だよ。…まことって、青も似合うんだね。とても素敵な発見をした』


彼の白いシャツの襟が、風で少し揺れる。青空とネモフィラを背景にした彼は爽やかさが上乗せされて、布団の中で丸まっていた姿とは別人のようだ。
…そもそも、カコいいんだよね、この人は。

繋がれた手の力が、少し強くなって。彼を見上げれば


「お前も似合ってる」


爽やかマシマシのマシで微笑まれた。


『……ありがと』


何度でも言うけど。カッコいいんだ、この人。


『また来ようね』





(空気も心も体もぽっかぽか)



fin


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ