Special

□かんかん
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夏生まれは暑さに強い、というのは嘘だ。
蝉時雨が猛暑をつんざく盛夏に産声をあげたらしい私は。


『やぁぁ…むり…あつ…』

「おい、冷房下げすぎだろ」


かなりの暑がりだった。

エアコンの推奨設定温度は27℃。
男性の好みは26℃で、女性の好みは28℃…なんて聞いたことがあるけれど。
夏休みのとある日、私はリモコンで温度を24℃まで下げていた。泊まりに来ていた まことは青筋たててリモコンを引ったくると、そのまま電源を落とす。


「除湿モードとかにすれば此処まで下げなくていいだろ…さむい…」

『えー…寒いなら長袖着ればいいじゃん、暑いのは何枚脱いでも暑いよ』

「既にサマーセーターとブランケット出してきた上で寒いって言ってんだよ馬鹿」


そうなんだよね、寒がりな彼はもう羽織れるものは羽織ってる感じ。そうは言ったって暑がりな私も脱げるだけ脱いで、キャミソールにショートパンツという出で立ち。


「…つーか、今日はプール行くんだろうが。用意しろっての」

『あー……そうだ、プール』


そう。夏休みのデート先を海にプールに水族館にと、涼しいところばかり計画した。…したけど。


『出かけるのが…あつい』


なんせそれ。
デート先に辿りつくまでが暑くてたまらない。
あの、体にじっとりと汗をかく感覚も苦手だし、すぐに頭がのぼせるのも嫌。

いや…わかってる。約束したデートを気温を理由に不意にされたら悲しいの、私だってよく知ってる。
寒さに弱いまことがクリスマスデートや初詣の度に渋るの、寂しいって思うことだってある。
…だからさ、その、おあいこにして貰えないだろうか。本当に暑い…今日の最高気温、37℃とかいってるじゃん。体温より高いよ。


「去年もそうやって行かなかったろ。なんのために水着買ったんだ」


わかってるって。私だって水着デートしたい。
まことの水着、見たいし。海を背景に立つまことも見たいし、プールで泳ぐまことも見たい。
きっと絶対どれもカッコいいに決まってる。

(でも、なんで水着買ったかなんて…)


『私が水着買ったのは、まことに「可愛い」って言われたかったからだもん…』


暑さとデートの天秤でグラグラだった頭は、言うつもりの無かった本音を答えた。
まことは、ポカンとした顔で何度か瞬く。


『…忘れて』

「いや、忘れねぇけど。…なあ、その可愛い水着姿は見せてくんねぇの?」

『ぅ…』

「そんなに出かけるの嫌なら、部屋で着てくれてもいいぜ。ほら、」


スルリと、キャミソールの裾を捲ってお腹を撫でられた。
彼は知ってる。…私が、ビキニを用意してること。


「どっちがいい?プールで着るのとベッドで着るの」


質問が少し変わってきている。ニヤニヤしている彼は、どっちの答えでも楽しいんだろう。

私の頭は、やっぱり天秤がグラグラで。


『暑いのは、嫌…でも、まことが可愛がってくれるなら、どっちでも頑張る』


でも、彼の喉が鳴るのだけは聞き取れてしまった。





「へぇ…?じゃあ、頑張って貰おうか」









(折角ならプール、と言ってくれた彼だったけど)

(結局わたしが、カンカン照りの太陽に勝てなくて)

(シーツの波に飲まれることになる)


fin


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