Special

□あつあつ
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残暑もなんとか落ち着いてきた、秋の夜長を感じるこの頃。“秋祭り 夜の紅葉狩り幻想ライトアップ”なるチラシを手に、私は彼氏に頭を下げていた。


『…夏の間は、すみませんでした』


熱さに滅法弱い私は、水着デートのはずだったプールや海への外出をことごとく無下にしてしまった。
その穴埋めのために、晩夏も過ぎ暑さも和らいだ今日この頃、夕涼みを兼ねたデートにお誘いしている最中である。


「………お相子だろ。しょうがねぇ」

『ありがと』

「で?それはちゃんと浴衣着るんだろうな」

『はい。もちろん。でね、まことも、さ?』


私も浴衣を用意するけど、彼にも浴衣を着て欲しい。
似合うだろうな、和装。


「そうだな…まあ、考えとく」


あ、その顔は着てくれるやつだ。期待していよう。




そうこうしてデート当日、水浅葱色の花模様を絞った白い浴衣を、精一杯おとなっぽく着こなしたつもり。
夕闇の中、待ち合わせ場所に先に着いて、そわそわと彼が来るのを待っていた。


「ふぅん。まあ、似合うんじゃね?」


後ろから声をかけられて、パッと振り返る。
至近距離に立っていた彼の佇まいを見て、私は思わず息を飲んだ。


『…そのまま返しますけど…カッコよすぎじゃありません?』


黒地の浴衣、銀鼠の帯、帯の飾り玉は朱色。
艶やかな黒髪を出し惜しみするような、オフホワイトのソフトハット。それ着こなす人っているんだ。
…よく見たら浴衣も黒無地じゃなくて、薄くトンボの柄が入ってる。粋じゃん。龍とか虎とか派手なのじゃないとこが好き。


「そりゃどうも。お前があんまり気合い入れてたから、少しは見合うようにしてやらなきゃ可哀想かと思って」

『違う違う。私が、まことに見合うように気張って粧し込んでんの。…うーん、もっとシックなの選べば良かった。まことの隣じゃ子どもっぽくなる』

「んなことねーよ。白い浴衣のほうが夜と紅葉は映えるし、その黄色いトンボ玉の簪はお前らしくていいぜ?ふはっ、十分、可愛いっての」


項から耳を撫で上げるようになぞる彼は、「な?」と、緩く笑んだ。


『あ、りが、と。……あぁ…ちょっと待ってね、今、めちゃくちゃ惚れ直してる最中だから。顔、熱くて、むり、待って、』

「ほんとだ。紅葉より紅いな」

『からかわないでよ…』

「なんだよ、そこも含めて可愛いんだろ?」

『わざと言ってる?ねえ、本当に待って…今は髪撫でるのも手を繋ぐのも禁止』

「せっかくのデートでそれは無いだろ。これでも楽しみにしてたんだぜ?紅葉も、お前の浴衣も」


狡い。さっきから紅葉なんて1ミリも見てないくせに。
可愛いとか言って優しく笑うとこ、私を絆して遊んでいる。遊んでるってわかってるのに、ちゃんと本音を混ぜてくれてるのも、わかってしまう。

どうしようもなく彼が好きな私は、顔に集まる熱をなんとか逃がそうと手で顔を扇いだ。


『そ、だね。私もまことの浴衣、楽しみで。想像以上にカッコ良かったから、動揺した、うん』


扇いでいた手を、パッと捕まれて。結局ぎゅっと繋がれる。


「熱いからって、離すなよ」

『…はい』


夜風が首筋や手首を撫でていくけれど、その涼しさを持っても火照りがひかない。


『…なんだ、まことも真っ赤じゃん』

「お前が煽るからだろ、馬鹿」

『ふふ、ごめんね?まことのこと、好きすぎて』


チラリと見上げた彼の顔も紅葉のように赤くなっているのがみえて、私だけじゃないと少しホッとしたのも束の間。

繋がれた手を、グッと引かれて抱き止められる。


『…っ!?』


それからチュッと、引かれた手からリップ音。


「………あんまり煽りすぎると、デート中断して持ち帰るからな」

『………き、気を付けます』




(嗚呼、あつい)

(季節を問わず、彼らは あつあつ)



fin


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