※カカイル短編※ 

□そんな出会い
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俺の飼ってたカブトムシが死んだ。
自慢出来る程の大きさじゃなかったけれど
父ちゃんが任務の帰りに森で見つけたからって捕って来てくれた奴だった。

「イルカ、お前は まだ5歳だから この先 腐るほどカブトムシに出会うさ。」

そう悲しむな。と、昨日の夜に父ちゃんが慰めてくれたけど
俺は腐っているカブトムシには出会いたくないと思った。


そして今 俺は家から程近い河原へ来ている。

本当は「1人で河原に行っちゃ駄目よ。イルカ。」と、いつも母ちゃんに言われているのだけれど
今日は特別。
母ちゃんには内緒で、誰にも内緒で
この「カブ太郎」の葬式を行いに河原へ遣ってきたのだ。

カブ太郎は綺麗なお菓子の空き箱の中、綿を敷き詰めた上に置いてある。
一緒にカブトムシ用のゼリーも ひとつ入れてやった。
あと庭に咲いてた薄青色の小さな花も。
(母ちゃんが“わすれな草”だって教えてくれた)

河原の大きな岩の上に座り、さてカブ太郎をどうするか悩んだ。

前に父ちゃんの仲良かった上忍が死んだ時“葬式”ってのに行った事が有る。

みんな木の葉の御葬式用の黒い服を着て(俺も子供用のを着た)涙ぐんでいた。

棺(ひつぎ)の中に花を入れて泣いていた。

「奥さんのお腹に赤ちゃんが‥」って、知らない くのいちのお姉さんが悲しそうに話していた。

棺の中で眠っている そのオジサンは、俺の家に遊びに来た事もある。

「イルカは元気だなぁ。オジサンもイルカみたいな元気な男の子が欲しいよ。」

そう言って頭を撫でてくれた人。


「 ……。 」 箱の中のカブ太郎を見る。

川の流れに箱を乗せて、流してサヨナラしちゃおうか?
それとも計画通りマッチで箱に火を付けて、燃やして“供養”とか言う事をしようか…


「それ、死んでるの?」
「 ! 」

ドキッとして前を見る。
いつの間にか、ちょっと離れて子供が立っていた。

マズい。河原に来たのは内緒にしておきたいのに。
てか、ホントいつの間に?

「お前っ、俺がここに来ていた事 誰にも言うなよ。」

俺が凄んで睨みつけたせいか、俺より年上のような その子は
キョトンと目を丸くして俺を見た。

「…了解。…で、そのカブトムシどうしたの?死んでるの?」

よくよく見ると、忍者みたいな格好で口布までしている その子は
近寄る事はせずに、背伸びして首も伸ばして箱の中を見て言った。

「近くで見ていいよ。」

そう言ってやると、ニコッと笑って近づいてきた。


「あのさ、お兄ちゃんはアカデミーに行ってる人?」

素朴な疑問とやらをぶつけてみると

「…お兄ちゃん?」

と、聞き返してきた。

「うん。だって俺より大きいお兄ちゃんでしょ?」

そう言うと、ぽうっと子供忍者の頬が赤くなった。

「初めて。“お兄ちゃん”なんて言われたの。」

と、また目を丸くしていた。
きっと俺と同じ、一人っ子か もしくは下に兄弟が居ないに違いない。

「あのね、もうアカデミーは卒業したよ。今は中忍なんだよね俺。」

そうしてニッコリと、目を弓形にして微笑んだ。

「嘘だいっ。“中忍”って、もっと大きい兄ちゃんが成るんだぞ!?」
「…うん…でも…試験通ったし。それよりそのカブトムシどうするの?」

とにかく子供忍者はカブトムシが気になるらしく銀色の髪を揺らして箱を覗き込んだ。

「俺の父ちゃんが森で捕って来てくれた奴なんだけど、夕べ見たら餌の横で死んでいたんだ。」
「 ふうん。で“棺桶”に入れているんだ?…このオヤツゼリーみたいの何?供物?」
「これはカブトムシ用のゼリー。虫の餌だよ。俺達は食べれないよ。」
「虫の餌。へえ〜。」

俺は ちょっと気になって

「口布取ったら触らせてやるよ。」

と意地悪を言った。

でも何も怯む事無く

「触らせてくれなくてもいいよ。でも口布は下ろしても構わないよ。」

と、スッと片手で布を顎下まで下げた。

「なんだ。ちゃんと口付いてんだ?」

思わずからかう様に言ってみたものの
女の子みたいな顔に少し照れくささも感じてしまった。

「カブトムシ、土に埋めるの?」
「埋めないよ。もっと本格的にするんだ。」

俺はポケットから禁断の“マッチ”を取り出して見せた。
こんなとこ母ちゃんに見られたら大目玉だ。

「火葬にするの?ああ…だから危なくないように水辺か。」

火で焼いてしまう事を“火葬”って‥確か大人達が言ってた気がするし
火を使うから安全の為に水辺で‥ってのは正直考えてもみなかった。
でも確かに何かが有った時は川に飛び込めば助かるかも。
俺が河原を選んだ理由は特に無かったのだが。

こいつ俺より大きいだけあって(アカデミーも行ってたみたいだし)頭いいかも。

「あのさ“火葬”を見ていてもいいけど、危険だから少し離れていた方がいいぜ?」

俺はマッチを ちらつかせて言った。

「そのカブトムシは名前が有るの?」
「うん。カブ太郎って言う。」
「カ…へえ。」

気のせいか、子供忍者が プッと笑いかけたような気もしたが
実はマッチ棒に火を点けるのは初めてで、少しドキドキしている俺は それどころではなかった。

 
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