※カカイル短編※ 

□雪が降る日も、雨の音も
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カカシさんが言う。

「先生と付き合う前は、雪が降る日なんて嫌いだった。」 と


今 窓の外は雪がしんしんと降っている。

夕飯も済んで、俺が学校の書類と睨めっこしていると
背中を丸めて炬燵に入っているカカシさんが、ぽつらぽつらと話し出した。


「先生と付き合う前は雪が降るとさ、任務先なんかではウンザリしてたよ。寒いし、凍えた指先でクナイ持つの嫌だったし。」

足元は歩きにくいしで最悪。と、ブーブー文句を垂れた。

「でもね。今は好き。雪が降って寒くなると、こうして先生と炬燵に入って ほっこりする時間が出来るから。」

言いながら幸せそうに「うふふ」と笑う

「任務に出てもさ、帰れば先生の暖かい胸と美味しい料理が待っているって思えるし。」

テーブルに片方の頬を付け、俺の顔を見る。

「雨の日も嫌いだったなぁ。視界は悪くなるし、臭いも薄れるしで任務に支障をきたす。」

それは今でも変わらないが と言い 話し続ける。

「休日が雨だと、忍犬達と日向ぼっこも出来ないし 気分的に暗くなるし。」

でもね でもね と、急に嬉しそうな顔で

「今は雨の日の休日も大好きだよ。先生と二人で静かに過ごす部屋の中が大好きなんだ。」

「俺、たいしてカカシさんの事 構っていないじゃないですか。」

申し訳無く思い、彼の顔を見る。

「学校の仕事を持って来ているから、休日だって書類と睨めっこしていたり…」

そう言って手元の書類を見る。まさに今がそう。

「いいんだよ。何もしなくても、先生と一緒に同じ場所で顔を見て過ごしているだけで幸せなんだから。」

そう言い、炬燵の中、足をくっつけて来た。

「…カカシさん。俺は前から、雪が降る日は大好きです。」
「そーなの?」
「窓の外、静かに静かに…今もそうですが、しんしんと降る様を黙って見ているのが好きです。」
「うん。綺麗。」

顔を突っ伏したまま、カカシさんは窓の外を見た。

「それに雨の日だって好きですよ。1人で部屋に居ても雨の音で癒されます。」
「そう?癒されるの?」
「シトシト静かに降っているのを黙って聞いていたら気持ちいいですよ?」

カカシさんは、「へえ、そうなんだ?」と、パタンと仰向けに寝転がり

「俺は雨の音は寂しげで苦手。」

と、眉を八の字にしていた。

「そうですか。寂しげか…。うん、子供の頃は苦手だったな。1人で部屋に居ると寂しかった。」

父ちゃんと母ちゃんが亡くなって、1人で夕御飯を食べる時間帯は寂しかった。
それが雨の日だと余計に。


「カカシさんは…」

横になっている彼に話を振り、ふと見ると
なんとも締まりのない顔でスヤスヤと眠っていた。

思わずクスッと笑ってしまう。
なんとまあ無防備な。

一度 彼に聞いた事がある。カカシさんでも寝る時は無防備なんですねって。

「貴方の前ならばね。イルカ先生になら、いつ殺されてもいいからね。」

そう微笑んでいたのを思い出される。

窓の外は雪も降る量が増えてきた。

雪が降る日が好きだなんて嘘。
貴方と付き合うようになってから苦手になった。

遠い地へ貴方が任務へ赴くと

貴方の居る場所にも雪は降っているのだろうか。
寒い思いはしてまいか。
吹雪で視界が悪くなるような場所では有りませんように。

そんな心配ばかりしてしまい、落ち着かない日々を過ごしてしまう。


雨が降る音も そう。

貴方と付き合うようになってから苦手になった。

子供の時のように
両親が居なくなった後のように
貴方が任務で居なくなると、寂しさが迫り来る様な感覚に襲われるから。

静かな雨音を一人部屋の中で聞いていると 貴方の存在が

『本当は無かったのでは?昨日までの幸せな日々は俺の夢だったのでは?』

と思えてならなくなるから。


「カカシさん?こんな所で寝ると風邪ひきますよ。」

炬燵から這い出て、彼の側に行くと

「うん…大丈夫。先生の傍で寝ていたい。」

目を瞑ったまま、手を伸ばして俺の手を握る。
そして眠そうにムニャムニャと話し続けた。

「だって…先生も寂しいでしょ…」

思わずカカシさんの手を握り返してしまった。


「馬鹿ですね。寂しくなんて…」


彼の額に掛かる銀毛を撫で上げ
炬燵布団から出ている肩に自分の着ている褞袍(ドテラ)を掛けて
もう一度 窓の外、降りしきる雪を見上げて

この人との幸福な時間が、いつまでも続きますようにと

誰にともなく願った。






 



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