※カカイル短編※ 

□切ない恋と報告書と
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報告書を手に持ち

受付の部屋まで

ゆっくり ゆっくりと歩いていく。

今日 この時間には あの人が座っているはず。
多分 右側の受付に座っている。


報告書の提出が済んだ人々と時々すれ違うが
そのたびに会釈される。

「はたけ上忍 御苦労様です。」
「お疲れ様です。」

声をかけて来る者も居る。

部屋の入口が見えてきた。
人の出入りが多い引き戸は開きっぱなしだ。

部屋に近づくと、室内からの声が漏れ聞こえてくる。

「はい。不備無しです!御苦労様でした。」

あの人の声だ。

姿を目にしなくとも、その声だけで胸が切なく高鳴る。


俺は あの人が好きだ

うみのイルカに恋をしている

きっと叶わぬ恋


若い頃から女との、数々の浮き名を流してきたこの俺が
初めて本気で惚れた人。

初めて…俺に恋する苦しさを教えてくれた人。

「切ない」って言う言葉は知ってたけれど
こんなに胸が締めつけられるものだとは知らなかった。

胸が… 苦しいと言う感じ


「お疲れさん。」
「 !! 」

部屋から出て来た上忍に声をかけられ我に返る。
いつの間にか 部屋の一歩手前で立ち尽くしていた。


気を取り直して 報告書を握り締め、スッと室内へ入る。

彼の隣の受付に、一人報告書を見せている者が居たが

「 !お疲れ様です。カカシさん。」

イルカ先生は、今出て行った上忍の報告書を まだ手にしたまま
俺に気が付きニッコリと笑って迎えてくれた。


可愛い。 可愛くて 今すぐにでも目の前の机を飛び越し、彼を抱きしめたい。

抱きしめて そして

「?カカシさん、どうかされましたか?」
「 ! あ、いえっ。あはは…今日は暑いな〜なんて…。」
「ですよね。まだ春も始まったばかりなのに。」

何の事はない話で誤魔化し、彼の前に報告書を出す。

「お願い。」
「はい。」

彼が報告書を受け取る時に、偶然を装い軽く指先を触れ合わせる。
気にならない程度だ。

だが俺にとっては それだけで
彼の体、全てに触れたくらいの喜びが有る。

触れた自分の指先をギュッと握り締め
じんわりと彼の温もりを吸収するかの如く余韻を味わう。

「カカシさんの報告書は、いつ見ても綺麗ですねぇ。見本としてアカデミーの生徒達に見せたいくらいだ。」

報告書に視線を落としたまま、イルカ先生が感嘆する。
そりゃあそうだ。イルカ先生が居るだろう時には一字一句丁寧に書いているから。

書き終わった後には 「好きだよ。」 って報告書に口づけている。

「不備は有りません。御苦労様でした。」

彼の その言葉が、受付での短い逢瀬の終わりを告げる。

「あの…」
「はい。なんでしょうか?」

食事にでも誘いたいと 声をかけるが
彼の眼差しに何故か怯んでしまい、あとの言葉を飲み込んでしまう。

「イルカ先生も…お疲れ様です。」
「ありがとうございます。カカシさんも ゆっくり休んでくださいね。」

優しい彼の言葉に、微笑み返すものの
その優しさは、俺だけに向けられているわけではないのを知っているから
また俺は「切なく」なる。

「じゃ…。」と、言って片手を軽く上げて
イルカ先生に背中を見せる。

こんなに先生が好きなのに
報われないだろうと考えるだけで泣きたくなる。

子供が好きで、誰からも愛される そんな彼が選ぶのは

きっと 可愛いくて優しい女性(ひと)


部屋を出る間際に「ふっ。」と小さく声に出して自嘲してしまった。

廊下を歩き始め、溜め息を吐く。
こんなの俺じゃないだろう?何をうじうじと…


「カカシさん!」

「 ! あ‥え?」

受付所から イルカ先生が慌てたように出て来た。

「あ、あの、カカシさん!」
「あ‥はい。」


イルカ先生はチラリと一度部屋の方を見てから
サササッと俺に近づいてきて 小声で話した。

「カカシさん、今夜あいてますか?」
「え?」

ビックリして目を丸くした俺は、イルカ先生を凝視してしまう。

「お疲れでしょうが、少し付き合って頂けないかな〜と思いまして…。」
「ど、どこに!?」
「あ、いえいえ‥」

ハハハと笑い

「軽く飲みに行きませんか?駄目なら駄目で断ってくだすっても…」
「行きます!!行きます行きます行きます!!」
「 あはは、カカシさんたら、良かった。」

では後ほど、式を送りますね。と、イルカ先生は受付に戻っていった。


それからイルカ先生と待ち合わせをして会うまで
自分は何をして時間を潰していたか、なんて ひとつも覚えちゃいない。

場所はイルカ先生行きつけの安い居酒屋だったが
酒や料理の味さえ覚えちゃいない。

覚えているのは、終始イルカ先生が笑顔で楽しげに話をしていた事だけ。


その日が切っ掛けとなり、イルカ先生とは度々飲みに行くようになったが
俺の恋心は、未だに告白も出来ずに燻ぶったままだ。

けれども 前よりは「切なさ」が和らいで来ている気がする。


そして
イルカ先生に、何故あの日 俺なんかを誘ってくれたのかを聞くと

「カカシさんが寂しそうだったから。」

だそうで、かなり「かまって欲しいオーラ」が出ていたらしい。

「カカシさんの背中を見ていたら、居ても立ってもいられなくりまして…。」

きっと先生の教師魂が、そうさせたのかもしれないが

もしかしたら毎回の報告書への「好き」と言う口づけが
じんわりと効いていたのかも…と

俺としては、そっちの効き目で有る方が嬉しいな と思うのである







 



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