※カカイル短編2※

□大切なもの
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「 これ、マフラー置いていきますね。返さなくとも大丈夫です。」

そう言い、少し離れた所で草むらにマフラーを畳んで置いた。

「では!失礼します!」

男はペコリと腰を折り曲げ御辞儀をすると
近くの林の中へと入って行った。

多分 薬草でも取りに来たのだろう。そんな雰囲気だ。


カカシは暫く草むらの上のマフラーを見ていたが
彼の人懐こそうな笑顔を思い出し、そうっと手を伸ばした。

『…暖かい。』

マフラーには、まだ彼の温もりが少し残っていて
不思議とカカシの手だけでは無く、心までをも暖かくしてくれるようだった。

彼のような忍びが居るなんて、木の葉も捨てたもんじゃないな…

カカシは手にしたマフラーを、ふんわり首に巻き付けると

「暖かい…。」

思わず声に出して言った

そうして また木の下に戻り、腰を下ろして溜め息を吐く。

もう三十分、いや十分も休んだら
腰を上げて里へ戻ろう。

再び足を投げ出し、もう少しだけ休憩を取る事にした。
先程とは違い 今は親切な木の葉の忍びに借りたマフラーを首に巻いている。

それから十分も休んだ頃
「あ!まだ居た!」 林の奥から声が聞こえた。


通常ならば聞こえるはずもない距離での声だが、聴覚が鋭いカカシの耳には届いた。 先ほどの男だ。

『暗部が物珍しいのかな。普通は一目置いて声もかけないんだけどな。』

小さな子供のように、恐れ知らずで好奇心旺盛なのだろうか?
それとも 暗部と接触し情けをかけて、恩を着せるつもりか。

男は再び近付いてくる。

「あの、俺 頼まれた薬草採りに来ただけで…。」

林に入って直ぐの所に沢山生えていたので、任務は早くも終了となったらしい。

だからどうしたと言うのか。そんな聞きたくも知りたくもない、どうでもいい報告。
カカシは声も出さずに黙って無視していた

「なので えっと…俺は帰りますんで。これ良かったら。」

そう言い、背嚢から小さな包みを出した。

「昼飯の残りだったんですが、持ってきたんです。握り飯。」
「 ……。 」

チラリと面の下で、足元に置かれた包みを見る。

え?余り物?暗部に余り物を捧げた?

しかし体は正直で、腹が小さく鳴った。

「 あんた、これで俺に恩を着せたと思うなよ。他言は無用、俺に会った事も…」
「そんなつもりは有りません!…有りませんし、勿論誰にも言うつもりも有りません。」

男は如何にも心外だと言った顔をしていたが、やがて悲しそうな表情へと変わった  が、カカシの首元に今更ながら気付くと


「…マフラー…巻いてくださったんですね。」

ふわりと満面の笑みを見せた。


それはカカシの胸を何か暖かいモノで満たし

「あんた 名前は?」

思わず男の名前を聞いたほどでもあった。

「あ!すみません。名も名乗らずに…。俺の名は、うみのイルカ!今年無事中忍となりました!」

ニカッと笑い、中忍以上の者が貰えるベストを
見てくれっ!!と 言わんばかりに胸を張ってみせた。

『新米中忍か。』

カカシは フッと笑うと立ち上がり

「マフラー借りてていい?」と聞き
「俺も一緒に帰るよ。」と、イルカの腕をポンと叩くと歩き出した。

「もう大丈夫なんですか?怪我とかされてませんか?」

トボトボと歩き出すカカシの歩調に合わせながら、イルカが心配して聞いてくる

人に心配される擽(クスグ)ったさにカカシの顔も緩むが、面を付けているので見られる事も無かった。

「肩貸しましょうか?大丈夫ですか?」

どうやら心配性らしい

そのうちカカシがクスクスと笑い出すと

「…だ‥大丈夫‥そうですね。」と、安心したのか
イルカもホッとした表情で歩き出す。


「 ねぇ‥イルカ。」
「はい。」
「やっぱり恩を着せてもいいよ。」
「 え? 」

それは どういう…?

キョトンとしたイルカが可笑しくて、カカシはクスクス笑いが止まらない。

「??なんですか?」
「あんた…ふふっ…どうやって恩を返そうかな。」

何故だか楽しそうに笑う暗部に、少し戸惑いながらも
元気そうだから まあいいか、とイルカも笑った。


大切なものがあるからこそ 人は強くなれる

カカシの頭に父親の言葉が ふと浮かび
不思議な気持ちに捕らわれながら イルカを見つめた。







 
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