≡ 連載もの・2 ≡
□雨は静かに降る
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それは雨が静かに降っている 肌寒い午後のことだった
空は暗く雨雲に覆われ 無風の中 雨は静かに静かに…
いや、大量の雨は僅かだが「サーッ」と音を立てて地面に落ちていた。
その日一日の授業を終え、俺は受け持ちの教室から 授業に使った五大国の地図を
脇に抱えて教材室へ向かって歩いていた。
途中の渡り廊下が屋根だけなので、外気に触れ少し寒さを覚える
そんな寒さの中 無事渡り終わって東校舎へ足を踏み入れた その時
「 イルカ先生 」
気配さえ感じる間もなく、今渡ってきた廊下の方から声がかかった。
耳に聞き覚えのある声に、ゆっくりと振り向くと
任務帰りなのか その人はマントを羽織ったまま廊下に立っていた。
「カカシさん。」
彼は 「はたけカカシ」 元教え子の今の上司だ
初めて挨拶を交わした日から「貴方とは仲良くやれそうだ。」と気に入られ
その後 度々飲みに誘われ今に至る。
ここ半月ばかり姿を見なかったので、里外任務に出ているんだな…とは思っていた。
「お帰りなさい‥です。あの、寒いでしょうから早く此方へ。」
そう促すと、彼はコクリと頷き マントのフードを頭の後ろに下げて静かに校舎へ入って来た。
「マントは防水だし寒くは無いでしょうが、風邪ひきますよ?」
職員室で 御茶でも淹れて差し上げましょうか?と近寄ると
彼はスッとマントの中から手を差し出し
俺の空いてる右手を掴んで 自分の方へ寄せるとキュッと両手で握ってきた。
「…? あの…?」
「好きです。初めて会った時から。」
「 え…? 」と、俺は固まった。
急な告白に、思考回路が追いつかない。
いま…この人は…
『俺の事 好きって…。え?愛の告白!?』
そう受け止めていいのだろうか?
俺が頭の中であれやこれや考えて、黙っていると
彼の 俺の手を握る手に、またまたキュッと力が入った。
よくよく見ると、前髪から雫が少し滴っている。
「イルカ‥先生。俺と付き合っ」
「駄目です。」
「 ! あ… 。」
咄嗟に俺は断った。
彼の気持ちを考える余裕も無いままに。
目の前の 俺を見つめる悲しい瞳に、ハッと少し我に返った。
「あ…ごめんなさい。俺…。」
「いいんです。諦めていたから…」
「あの、その…俺、来月結婚するんです。」
「 !! 結婚… 」
するりと俺の手から彼の手が離れていった。
そう 俺は来月結婚するのだ。
それも他国の大名の末娘とだ。
「急な話だったのですが、結婚が決まりまして…。カカシさん?」
カカシさんは 想定外の俺の結婚報告に退いたのか
黙ったまま下を向いて固まっていた。
「あの…お気持ち嬉しかったです。でも…ごめんなさい。俺は他里へ…」
「他里?」
ドキッとした。彼から嫌なチャクラを感じる。殺気に近い気だ。
「半年前に水の国の大名が此方へご訪問のさい、俺が世話係として付いたのですが…」
なんだか大層気に入られたようで、まだ嫁に行かぬ末娘の婿に是非と…
「俺を所望されたらしく。丁度半月前にお話を頂きました。」
「…先生は、それでいいの?」
「はい。里の為にもなりますから。」
そう上層部にも言われた。
「お写真を拝見させて頂いたら、可愛らしい感じの方でした。俺には勿体無いくらいです。」
つい にやけてしまっただろうか?
そう言えば、今俺は この人に告白されたばかりだった。
『ちょっと無神経だったな。俺の馬鹿っ』
しかし キッパリと諦めて貰うには却って良かったのかも…
カカシさんは
「…わかりました。俺って何やってんでしょうね?」
ハハ…と短く笑うと
「先生の幸せを願うし、祈っています。」
顔をクシャリと崩して、無理な笑顔のまま 煙りと共に消えて行った。