≡ 連載もの・2 ≡
□雨は静かに降る3
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カカシさんが、俺の身辺警護の任務を受けた。
自惚れる訳ではないが、彼の気持ちを考えると複雑だ。
俺だったら好きな人の挙式に着いて行くなんて辛いだけだ。
それとも…
あの告白は何かの冗談で、実は結婚するのを知っていて
男に言い寄られた時の俺の反応を試しただけだったとか!?
『…なわけ…ないよな。』
告白してきた時の彼の真剣な眼差しが、まだ目に焼き付いている。
カカシさんは 常に見える所で俺を警護しているわけではなく
どこかしらに身を隠して見てくれているらしい。
綱手様も言っていたが、身辺警護なんて形だけのもので
そう心配する事もないし、ましてや俺自身も忍者だし
言わばカカシさんは「婿の身辺警護 及び お付きの者」と言う感じらしい。
「 …カカシさん?」
アカデミー帰りに 姿の見えない彼に声をかける
「カカシさん!?出てきてください。いらっしゃるのでしょう?」
すぐに姿を現さない事に焦れったさを感じ、つい声を荒げた。
「なんですか?先生。」
スッと目の前に降りてきた(何処か上の方に居たらしい)彼の姿を見てホッとする
「一緒に…歩いて貰っては駄目ですか?」
「もちろん構わないですよ。」
「傍に いらっしゃるのに寂しいじゃないですか。」
そう言うとカカシさんは少し眉をひそめて何か呟いた
「仕方ないですね。…先生は寂しがり屋だから…。」
「 え?なんですか?」
「いえ。なんでも有りません。ついでに手でも繋ぎましょうか?」
ふふふ‥と笑っているから、冗談のつもりで言ったのだろうが
カカシさんの俺への気持ちを知っているだけに、冗談にも聞こえず少し困った。
アパートに着くまで 久しぶりに二人肩を並べ歩き出した。
いつだったかな…最後に一緒に歩いたのは‥酒々屋で飲んだ帰りだな
「久しぶりだな。イルカ先生と こうして歩くの。」
カカシさんも同じ事を考えていたらしく、俺は少し嬉しくなる。
「カカシさんが里外任務に行かれる四、五日前でしょうか。酒々屋で飲んだ帰りです。」
「嬉しいなぁ。覚えていてくれてるんですね。」
その言葉にハッとして、多分耳まで赤くなっているだろう俺は
「こう見えても忍者ですからね!記憶力が無ければ やっていけませんっ!」
と豪語したのだが、却ってクスッと笑われる
「可愛いなぁ先生は。…きっと あちらのお嬢さんも気に入るに違いない。」
「 ……そんな…。」
カカシさんは俺への気持ちが、もう吹っ切れたのだろうか?
どうして優しく微笑みながら、そんな事が言えるのだろう?
『なんだろ俺。告白されて断った時には、諦めてくれる事を願ったのに。』
「着きましたよ、先生。どこまで歩くの?」
「 !? 」
考え事をしていて、自宅前を通り過ぎるところだった。
「大丈夫?イルカ先生。挙式も近づき気もそぞろかな?」
「ち、違います!ちょっと考え事をして…。」
「そうですか。では俺はこれで。」
これから後は、カカシさんが俺の部屋に特別な結界を張るそうだ。
「何かが有れば、俺が口寄せで来るようになっています。」
「…俺なんかの為に…すみません。」
「…任務ですからね。」
そうだった。俺の為って訳ではなく、任務なのだ これは。
「五代目がね“写輪眼のカカシ”を護衛に付け、付き添わせたら箔が付くだろう?って言ってました。」
「カカシさんは他国にも名を馳せていますからね。」
カカシさんはクスッと笑うと
「あまり立ち話が長くなると帰りたくなくなるので。俺は これで。」
「あ‥あの…」
「結界は張ってあります。先生は出入り出来ますけどね。…おやすみなさい。」
名残惜しそうに白い煙と共にカカシさんは消えた。
名残惜しかったのは俺も同じだったのかもしれない。
まだ話していたかった
彼の目を見つめながら、話をしていたかった‥と
俺は唇を噛んで下を向いた。