≡ 連載もの・2 ≡

□雨は静かに降る4
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せっかく温泉宿に泊まれたと言うのに
強い風と雨のせいで、大好きな露天風呂は おあずけとなった。

体も温まり、脱衣所へ行くと
自分の服が入った籠に、綺麗に畳んだ浴衣が置いてあった。

『カカシさんだ。わざわざ置きに来てくれたんだ…。』

周りを見ると、皆この旅館の名が入った浴衣を着ている

俺もカカシさんが用意してくれた浴衣に手を通し
髪は手拭いで水分を拭ったまま、急いで部屋へと戻った。

「カカシさん、早く入って来てください。」

部屋の襖を開けるなり、そう言ったのだが

「 ……。 」

彼は一瞬固まり、少し驚いたような顔で俺を見上げていた。

「 ?あの…?」
「 あ、はい。すみません。ゆっくり入ってきても良かったのに。」

そう言うと、そそくさと立ち上がり手拭いを持ち

「しばらくしたら 夕飯が運ばれて来ると思います。先に食べていてください。」

俺の顔を見ないようにしているのか、目線を斜め下に下げたまま言った。
少し頬が赤いようにも見える

いや、多分 俺もだ。

立ち上がったカカシさんの、似合いすぎる浴衣姿にドキドキしている。
彼も…俺の浴衣姿に?

「行って来ます。」


とうとう目も合わさずに、カカシさんは俺の横を通り過ぎ
足早に部屋を出て行った。

「 ……。」

少し 遣るせなさを感じながら、手にした手拭いで再び頭を拭う

『あ…髪下ろしている顔、初めて見せたかも。』

また胸の鼓動が早くなる

なんだか これって…蜜月の晩のようだ

そんな変な考えが頭をよぎる。


「馬鹿な。俺は結婚するんだぞ。変な事を考えるなっ!」

口に出して そう言い、情けない自分を叱咤した。




食事はカカシさんが戻る少し前に運ばれてきたので、冷める前に口にする事が出来た。

「先に食べてと言ったじゃないですか。」

風呂上がりのカカシさんが、テーブルを挟んで向かい側の座布団に腰を降ろしながら言った。

少し はだけた胸元に、目が行ってしまう

「先ほど運ばれてきたばかりですし…。」
「…ご飯食べるのに髪‥邪魔にならない?」
「…はい。生乾きなもんで。」

嘘だ。カカシさんの反応が見たくて、わざとに髪を下ろしたままなのだ。
チラリと彼を見る。

「ぷ…クスクス…。」
「?なんですか、先生。」
「カ…カカシさんの髪って、洗っても多少跳ね上がっているんですね。」

失礼だと思ったが、笑ってしまった。
だけど、それが場の空気を和ませる形になり

カカシさんも照れながら拗ねた顔で「親父譲りです。」とボヤいていた。

「さあ、食べましょうカカシさん!」

箸を手に取り料理を眺める

「刺身、美味そうですね!!あ、カカシさん、その天ぷらと煮物を交換しませんか?」
「…イルカ先生には俺の好き嫌いを把握されちゃっているからなぁ。」

うふふと申し訳なそうな顔をして、物々交換をし
酒はほどほどに‥と言う事で、徳利を二人で一本飲むに留めた。

時間が経つにつれ、多少の酒も入ったからか
あれだけ俺の方を凝視しないようにしていたカカシさんも
楽しさに目を細めながら、俺を見て会話をするようになってきた。


 
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