≡ 連載もの・2 ≡
□雨は静かに降る6
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大名屋敷の離れ座敷で、挙式までの四日間
俺はカカシさんと ひとつ屋根の下で過ごす事となった。
着いたばかりの今日は、これから大名と 俺のお嫁さんになる娘さんと夕餉の膳を囲む事になっている。
勿論 俺の付き添い人であるカカシさんも一緒にだ。
「カカシさん、着物…こんな感じで良いでしょうか?」
風呂から上がり、里が用意して持たせてくれた 質の良い着物に袖を通した。
「…似合いますね。でも帯の位置を もう少し…。」
「ちょっと失礼」と、カカシさんが俺のすぐ目の前に立って胴に巻いている帯をグッと少し下げた。
「……。」
カカシさんの顔が すぐ近くに有るので俺は赤くなる顔を下に向けたのだが…
「先生?どうしました?」
俺は両手で彼の忍者ベストの両端をギュッと掴み
顔を下に向けたまま、彼の鎖骨辺りへ頭をコツンと付けた。
「…カカシさんに里の匂いが残っている。」
「 ……。 」
俺は何をやっているのだろう…
でも だって 彼が こんな近くに
カカシさんの両腕が静かに上がったので
俺の顔を隠すように下がっている髪に触れるのかと思ったら
その両手は髪に触れる事なく また静かに少し下がり
両肩を軽く掴むと、自分の体からそっと俺を離した。
「…風呂入ってきます。時間が有りません。」
そして何の感情も感じられない口調で そう言うと
立ち尽くす俺をそのままに、風呂場へと消えて行った。
俺の肩に触れた手が 微かに震えていたのは気のせいだった?
俺は その後、一人ぼんやりと庭を眺めながら
もう少しで自分の嫁さんになる人に会うというのに カカシさんの事ばかり考えていた。
結婚しても暫くは木の葉に滞在するから、カカシさんとは いつでも会える とか
自分勝手な都合の良い事ばかりだが。
「 ……バカだ俺…。 」
そんな不貞を働こうとする奴を、カカシさんが相手になんかするはず無いし…
ましてや、写輪眼のカカシを都合良く扱うなんて
「先生、行きますよ。」
「 !! あ、はいっ。」
いつの間に風呂から上がったのか、カカシさんが忍服姿で立っていた。
「カカシさんは‥忍服ですか?」
「一応正装です。額当ては、外していきますが。」
「 はあ…。 」
彼の着物姿を少し期待していただけに、ガッカリだ。
「もう少ししたら迎えの者が来るでしょう。…お腹すきました?」
「少し…て、カカシさんは俺がいつでも腹をすかせていると思ってませんか?」
ぷうっと膨れ面をすると、彼はウフフと笑い
「イルカ先生は出された物は残さず食べるし、本当に美味しそうな顔するから見ていて楽しいです。」
「 …はあ…。 」
嬉しそうな楽しそうな顔で 目を細めて見つめられ
俺は この先ずっと
彼の傍で暮らしていけたら…とさえ思ったりした
「…嫌な雲ですね。また降るかな?」
カカシさんの言葉に、空を見上げる。
東の空に暗い鉛色の雲。 まるで煮え切らない俺の心のようだ。
「挙式の日には晴れるといいですね。」
空を見上げたままカカシさんが ぽつりと呟く
「はい…。」
と、俺も空を見上げたまま答える
本当は、こんな話をしたいわけじゃないのに
声や表情は冷静でも お互い心の内で叫び有っている気がした。
「お待たせしました。」
若い使用人の女性が迎えに来て、俺とカカシさんは腰を上げ
靴や草履を履き、誘導されるままに屋敷へ歩き出す。
途中 庭師二人が作業の手を止め、こちらに向き直り深く御辞儀をした。
なんとも妙な気分だ
「…先生、あの男…」
「 え? 」
ふと通り過ぎた庭師達の方を見る
若い庭師と目が合った。
だが、目が合うと すぐさま作業の続きを始め
こちらには もう興味がないといった風な様子だった。
「先生の事をジッと見ていましたよ…。お嬢さんのお婿さんに興味が有ったようですね。」
「凡庸な男でガッカリしただろうなぁ…。」
「先生 自己評価低すぎですよ。」
クックッと笑われ、そんな事ないのに…と思っていたら
「こちらへ。」
と、屋敷内への入り口へ案内され
廊下を何度か曲がり、漸く広間に着いた。