*過去拍手文*

□ジューンブライド
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六月になり、ここのところ雨降りが多くなってきた今日このごろ

放課後の職員室で 俺より三つ年下の男性教員が 「今月末に結婚する」と皆に報告した
急な話に職員全員が驚きを隠せなかったが
兎にも角にも祝い事なので、皆で「おめでとう!!」と祝福した。
聞けば「デキちゃった婚」らしい。
いいじゃないか、それで!!羨ましいぜ!!ちくしょうっ!!

どさくさに紛れて沢山小突いてやった。
すると一番若い女の先生が

「イルカ先生、先越されちゃいましたね〜。」

と、からかって来たので 「悪かったなぁ。」とイジケて見せた。

皆から おめでとうおめでとう と囲まれて祝福されている彼を見ていて

「いいなぁ、俺も言われたいぜ。」

と ボヤくと

「仕方ねぇなぁ。」

と、今度は皆が俺を囲み

「おめでとう!!イルカ!」
「結婚おめでとう!!」

と 言い出した。 が、みんな顔がニヤニヤしている。

「うむ、ありがとう。苦しゅうない。先に御祝儀をくれてもいいぞ?」

そこまで言うと 「何言ってやがる!!早く嫁探せ!!」と、小突かれた。

そんなこんなで、近いうちに職員だけの祝賀会を開こうと話が決まった。
いいなぁ 幸せそうな顔してた。


しがない独り暮らしのアパートへ帰るべく職員玄関を出ると

「…小雨か。」

降りそうだな‥とは思っていたが
俺は肩掛け鞄から折り畳みの傘を出して開き
濡れ始めた道を歩き出した。

『ジューンブライドか。幸せになるって言われてるよなぁ。』

雨に濡れた紫陽花を見て、まだ見ぬ花嫁さんの姿を想像する
雨は しとしと降り
傘をささずには いられない程になっていた


紫陽花の前を通り過ぎ、テクテクと商店街の側を通り過ぎ
濡れながら走り去る子供達とすれ違い
もう少しで我が家が…と言う所で
今日は閉まっている古本屋の軒下に その人は居た。

「カ…カカシさん?」

しょんぼりした風情で、いつもは天に棚引くように立っている
髪も心持ち しんなりと元気なく垂れていた。
急いで駆け寄り、顔を覗くように見て 声をかけた

「カカシさん、どうされたのですか?誰かと待ち合わせでも?」

すると 俺の顔を見るなり 益々眉を下げて こう言った

「先生…結婚するんですか?」
「 は!? 」

何を唐突に…と思っていると

「 今日職員室の前を通ったら、皆から“結婚おめでとう”って。先生も“先に祝儀をくれてもいいぞ”って。」

と、益々 眉を八の字に下げた。

「あ!?あはははは!!」

笑い出した俺に、カカシさんが戸惑う

「何が可笑しいの!?そんなに嬉しいって事?」
「違っ‥違いますよっ!!やだなぁカカシさんたら、あはははは。」

あ、まずいまずい カカシさんが何故か泣きそうな顔に!?

「すみません、あれは ふざけていただけで‥結婚するのは他の男で‥。」

ニッと笑うと

「…ああ…びっくりした。」

カカシさんは漸く安心したらしく、ホッと胸を撫でおろしていた。


てか、なんで俺が結婚となるとカカシさんが悲しむわけ!?

「あ!わかった!!やだなぁカカシさん、俺に先を越されると焦ったのでしょう!?」

残念ながら まだまだですよ と言うと

「 …うん。」

と 凄く嬉しそうな顔で笑っていた。
よく見ると、ベストの肩も濡れている

「カカシさん お時間有るなら 俺んちで お茶でも飲んで行かれませんか?」

粗茶しか有りませんが‥と声をかけたら
目を丸くして、次に顔を赤く染めて

「いいんですか?是非…。」

と喜んでくれたようだ。


傘が無いカカシさんと相合い傘をし、近くの我が家へと向かう

二人で お互いに「俺が持ちます。」と傘の取り合いをしながら

なんだか そんな事も楽しく感じられ
結婚なんて まだまだいいやと思う俺だった。






 

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