*過去拍手文*
□大切な人
1ページ/1ページ
イルカ先生と喧嘩した
理由は大した事じゃないけれど、とにかく彼の頑固さに
いつもはニコニコ笑って流すこの俺が、つい声を荒げて言い返してしまったんだ。
彼を心配しているからこその意見だったのに
珍しく怒りにまかせて言い返したこの俺を、先生は驚いた顔をひきつらせ
プイッと そっぽを向いたきり、それっきり…
ムウッとした顔のまま返事もしなくなった。
「 困った人だ。…今から夕飯どうすんの?先生作んないなら俺が何か作る?」
「 …食べたくないから要らないです。」
依怙地(いこじ)な人だ。
今夜は先生の大好きな すき焼きしましょうねーって
午後に二人で買い物してきた牛肉‥どうするんですか。
「あ、そ。じゃあ俺、ガイでも誘って居酒屋行って来ます。遅いようなら先に寝てていいからっ。」
「 御自由に。 」
うわー!!可愛くない!!先生ったら!!!
意地張って可愛いのはサクラくらいの年頃までの女の子だよ!?
俺は俺自身の怒りを冷ます為にも、本当にガイを誘って久しぶりに先生以外の男と飲みに出た。
先生だって大人だからね、腹が減りゃ何か口にするだろう。
放っておいても大丈夫さ。
「どうしたカカシィッ!!イルカと喧嘩でもしたのか!?おいっ!!」
「 …ははは。何言ってんのガイ。たまにお前と飲もうかな〜って思っただけだよ。」
変なとこで勘の鋭い男だ。
「よおーし!!飲むぞーカカシィッ!!」
「あははは……ハァ…。」
やっぱ喧嘩の後のガイはキツいな。
テンションが追いつかない(いつもの事か)
まあ そんなこんなで
少しは気も晴れた頃、ガイとの飲み会も御開きにして
今や住み慣れたイルカ先生のアパートへと足を向けた。
「 ………。 」
ここのところ ちょっと夜風が寒く感じる。秋も深まったって感じだ。
先生…まさか この時間に寝てはいまいな。
いつもなら好きな深夜番組見て笑ってる頃だ。
『もう肉まん売ってたよなぁ…。買ってきてあげれば良かったかな…。』
て、 ダメ ダメ!!
俺って ついつい先生を甘やかせてしまう。
たまには うんと怒っているふりくらいしなきゃ
『 ふりくらい‥って言ってる時点で、俺許しちゃってるよなぁ…。』
情けない自分に…そして心底イルカ先生に惚れきってる自分に
ほとほと呆れながら足を早めた。
「 あれ? 」
見上げた部屋の窓は真っ暗で
『 まさか先生も誰かと飲みに行ったんじゃ…』
ムッとしながらアパートの階段を足早に駆け上がる
そおっと玄関ドアを開けると、外から入り込んだ月明かりで
三和土(たたき)に先生の靴が有るのが分かった。
『 …寝てるのか?』
多分 ふて寝でもしたのだろう。
俺が帰らないとでも思ったのか
当て付けのように部屋の明かりまで消して。
『 先生 ほんと許さないからねっ。俺だって口聞いてやんないよ?』
なんて ちょっと思ってみたりして
室内に入り、寝る為に歯を磨いたりなんだりしながら
居間や台所の様子を見たが、どうやらカップ麺を食べたらしい事が分かった。
寝室への襖を開ける
少しホッとする。
何故なら もしかして畳の上に寝具一式出されていたりして…と、内心不安だったからだ。
横に寝られるのも嫌だって思われてたら どうしようかと思ったから
彼は背中を向けて寝ていたが、多分起きている。
俺の気配を感じながら、何を思っているのか…
「 ベッドは1つだからね。仕方ないから寝るけど。」
独り言のふりして呟きながら、そっと布団の中に身を置く。
目の前には先生の背中。 静かに寝息を立てている…ふりだ。
「 先生…。俺 ほんと先生が心配なの。過保護だって言われたって、子供扱いするなって言われたって」
喧嘩の続きのように、俺は話し出す。
「 とにかく…先生から口きいてくれない限り、俺からも口ききませんからね?」
もうっ!わかったの!? なんて、わざとに不貞腐れた口調で言い
「 おやすみっ 」
と、俺も背中を向けて寝た。
「 …… 」
何かリアクションでも有るかと待ったが駄目だった。
彼の動きもなく、俺もそのまま眠りについた。
翌朝
「せんせ?コーヒー飲む?ミルクは?」
むっさい顔して起きてきたイルカ先生に
俺はルンルンと話しかける
「ほーら。ベーコンがカリッカリに焼けて美味しそうでしょ?早く座って。」
「 …… 」
のそのそと卓袱台の前に腰を下ろした先生は、困惑した顔で俺を見る
「 …カカシさん、俺とは口きかないんじゃ… 」
「 無し 無し!」
どーぞ、とベーコンエッグの乗った皿を目の前に置いてやる。
そうして先生の耳元で こう囁く
「 今夜こそ すき焼き食べちゃわないとね。…精付けとかなきゃ。」
「 な…!! /// 」
赤くなった先生の耳に軽くキスして俺も座布団に座った。
夕べ あれから
真夜中に
俺は起きていたけど、やはり寝ている程度に気配を消していたら
先生が、俺の背中に額を付けて
「……ごめんなさい。」
小さく呟いたんだ。
ただ。 ただ それだけの事だったんだけど。
一気に“怒り”なんてものが消え去った。
本当は すぐにでも抱きしめて、あんな事や こんな事をしたかったけど
俺は“眠りについている”のだから、聞こえていなかった事にして
そのまま幸せ気分で本当に眠ってしまったのでした。
「 先生、パンもう一枚焼く?」
「 …はい…。 」
まだ不思議そうな顔をして俺を見ている可愛い人は
仕事から帰ってきた時には「俺も言い過ぎました。」と、ちゃんと謝ってくれた。
依怙地で照れ屋で可愛い
そんな人が 俺の大切な恋人なんだ。
終