捧げもの
□静かな約束
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【静かな約束】
―― 早朝
昨日のうちに買っておいた花と母ちゃんが好きだった栗饅頭と
父ちゃんへはコップに入って売られている酒を持って、俺は墓地へやってきた。
九尾と戦い亡くなった両親は、里の英雄として慰霊碑の方にも名が刻まれているので
あとでそちらへも行く事とする。
夕べ少し雨が降っていたので路面が濡れており
木々や草花には朝露のように雫が付いて光っている。
仮にも忍びのこの俺は、ヒタヒタなどと足音は立てずに歩を進めていった。
なんとなく 何となくだけど気配も消して墓地の敷地内を歩く。
ちょっとした雑木林を抜け、両親が仲良く眠る区画ヘと出る時
俺は木の陰で体を隠すように足を止めた。
誰かが…俺の両親の墓の前に居たからだ。
『 誰? 』
よくよく見ると、その見知った姿に軽く驚く。
スラリと背が高いその男は銀色の斜めに立ち上がった髪をそよがせ
背中を見せて黙って立ったまま動かない。
『カカシ…さん…だよな。』
この春、無事に下忍となった可愛い教え子達の上司であり師である人だ。
『何故 俺の両親の墓に?』
足を前に出せずに木の陰から里の誉れの後ろ姿を見つめる。
実は顔を合わせ難い事もある。
最近 酒に誘われる事が数度有ったのだが
全てタイミング悪く仕事が詰まっていたり外せない用事が出来たりと
ことごとく断らなければいけない事態が続いていたのだ。
あの、誰もが一目置く「はたけカカシ」のお誘いをだ。
『俺だって行きたいよ。カカシさんのような高名な上忍からのお誘いなんて滅多に有るもんじゃないからな。』
しかも「ナルト達の様子も話しておきたいですし…」と言われりゃあ尚更だ。
次回 もし飽きずに声をかけてくださったら、他の用事など他人に押し付けてでも行こうと思う。
『…とか考えていたら この前の三度目の誘いは火影様の用事で仕方無く断ったからなぁ…』
て、何こんな所で考えちゃってるんだ俺!
今 出て行って挨拶と、墓参りへの礼を言わなきゃだろっ!!
畏(カシコ)まるつもりも無かったが、木から離れ ベストの裾を軽く引っ張って身なりを整えた・・・と
そこでカカシさんが急に此方を振り向いた。
離れてはいるが目が合い一礼をして顔を上げ、カカシさんの方へ足を向けた時
「 !! 」
カカシさんの傍に、瞬身で二人の暗部が現れた。
『 暗部… 』
すると 彼等と一言二言会話したカカシさんは
再び俺の方を見て、困ったような笑顔(目しか見えないが)を見せ
軽く会釈をして暗部と共に消えた。
「任務でも入ったのかな…。」
呆けて空を見上げた俺は、手元の小さな花束を見つめ
墓参りの御礼くらい、ちゃんとしなきゃだよな…と思った。
しかし
皮肉なもので、こんな時に限って顔を合わす機会が減った。
御礼を言わなきゃ言わなきゃと思うのだけど、なかなか顔を合わす事が無い。
受付に座っていても、タイミングが悪く俺の居ない時に来ているようだ。
それから半月も過ぎると、御礼をする事すら忘れかけていた
そんな時
アカデミー勤務を終え、受付へと向かっているとき 渡り廊下でカカシさんに会った。
カカシさんに…と言っても、あちらは任務の話をしながら数人で歩いていた。
何故か いつもタイミングが悪い。
これではわざわざ足を止めさせてまで礼を言う事も憚(ハバカ)れる。
俺に気づいたカカシさんは「あ」と言う顔をしたが
俺は軽く会釈をするだけしか出来なかった。
そうしてカカシさん達と擦れ違うとき
「俺は これで失礼するよ。」とカカシさんが仲間に言った。
『 え? 』
振り向くと すぐ側にカカシさんが…