捧げもの

□相愛
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 【 相愛 】



夕暮れの第三書庫

はたけカカシは、受付に提出すべく任務報告書を書いていた。

あまり人が来る場所でもないので、誰にも気兼ねする事無く
ゆっくりと一字一句丁寧に書いていた。

午前の十時に七班全員集合。
酒屋の裏の草むしり及び酒樽、瓶等の整理。

昼は酒屋の奥さんから握り飯と味噌汁、沢庵を馳走になる。

十四時作業終了。

「酒屋の件は これで良しと。」

ぺらりと書き終わった報告書を取ると、もう一枚下に白紙の報告書

今日は二件分の報告書が有るのだ。

酒屋での任務終了後、里の外れに有る農家の手伝いもしたので子供達はヘトヘトだった。

「お前ら今日はもう帰っていいぞ。俺が報告書出しておくから。」

そう労って帰したのだが、カカシには独りで受付へ行きたい理由も有った。

今日、この時間に座っているだろう「うみのイルカ」に用が有るのだ。

『今日こそ言うんだ。』

― イルカ先生、今度一緒に飲みに行きませんか? ― と。

戦に限らず色事にも、百戦錬磨と言われたカカシだったが
いざ本当の恋となると自分でも呆れるほどに奥手となった。

こんな事は初めてで、カカシには初恋と言っても過言ではなかったのだ。

とにかく 今日こそは邪魔な子供達も居らず
飲みに誘うには絶好な日なのだ。

それに、こっそり調べたイルカの受付シフトで
イルカがアカデミー業務だけで帰れる日を把握しているので
夕方から ゆっくりと食事もして、飲みにも行ける日を決めてある。

「 よし、報告書OK。心の準備OK。 」

カカシは机の上の報告書と自分を指差し確認すると
立ち上がり、ひとつ深呼吸をしてから書庫を後にした。





「次の方、どうぞ。」

受付の混雑もピークが過ぎ、報告書を手に並ぶ者も数少なくなる頃。
イルカは一人一人に労いの言葉をかけ、にっこりと愛想良く報告書を受け取っていた。

ポンと判を押してチラリと壁の時計を見る。


「はい、次の方!」と呼びながらチラリと時計の長針と短針の位置を確認する。

『 おせえな… 』

今日はナルト達 第七班も任務が有ったはず。
もうとっくの昔に来てもいい時間なのに姿を見せない。

イルカせんせー!!と、飛びかからんばかりに受付の机に駆け寄るナルト
ナルト!いい加減にしなさいよ!と姉さんぶるサクラ
そんな雰囲気などお構いなしに「ふん」と澄ましているサスケ

そして・・・

「 どーも 」 と、耳を擽り胸の鼓動を跳ね上がらせる穏やかな良い声

『 カカシさん… 遅いな… 』

うみのイルカは道ならぬ恋をしていた。
相手は自分とは雲泥の差のエリート上忍はたけカカシ。

教え子達が御世話になっていなければ、きっと声もかけられない相手。

いつだったか はたけ上忍は子供が苦手だと耳にした事が有るが
いやいやどうして。 彼の子供達を見つめる目は優しさに満ちている。
その声と同様に穏やかな眼差しなのだ。

カカシの声で“イルカ先生”と言われる度に胸が高鳴るようになったのは いつからか?

ナルトが煩くしていると
「こらこら、イルカ先生も居るんだから静かにしろ。」だなんて
あの声で名を呼ばれる度にドキリとするのだ。


「 おい、イルカ。見てみろよ。 」

人が退けた時に、隣に座っている同僚が声をかけてきた。

「 なに? 」
「入り口付近にたむろしているくノ一達…いい女ばかりだなぁ。」

見ると三人のくノ一が、お喋りに夢中なっているようだった。

皆 一様に髪が胸まで長く、唇は紅く艶やかで
体の線が丸わかりなピタッとフィットした忍服を身に付けていた。

「そっち専門の姉さん方かな?一度お相手願いたいよなぁ?」
「 え?は‥ははは…。 」

どうひっくり返して見ても、イルカの好みの女なぞ居はしなかった。

「きゃあー!!」

ふうっと溜め息を吐き下を向いた瞬間、女達の歓声が聞こえてきたので再び顔を上げると…


『 ! カカシさん!? 』

カカシが一人で受付に やって来たのだ。

「カカシ!任務終わったの?飲みに行かない?」
「あら、私と行くわよね?カカシ。」

わらわらと三人の女がカカシに擦り寄ってくる。

それを見ているイルカの同僚は ハアッと溜め息を吐き
「やっぱ俺達じゃ無理か…。」と肩を落とした。


「ちょっ、お前ら煩いよ。俺は今から報告書を出さなきゃいけないの!!」
「じゃあ早く出して来なさいよ。」
「そうよ待ってるわ。そのくらい。」
「誰に付き合うか決めてね。二人きりで過ごしたいから。」

カカシは「あーもうっ!離せっ!」と言いながら
入り口に女を残して受付に近づいてきた。

「えっと、あの…報告書です。」

カカシは迷うことなく真っ直ぐとイルカの前に立つ

「はい。お預かりします…。」

チラリとイルカの目が、入り口で待っている女達の方を見たので
カカシは内心『落ち着け自分!』と叱咤しながら

「ははは。何でしょうね?あいつら…。よほど暇なんでしょうね?」
と、如何にも自分は興味ないのに…と言う事をアピールしてみた。

「…皆さんカカシさんの事がお好きなんですよ。綺麗な方ばかりで羨ましいです。」
「せ、先生、そんな事ないんですよ?あいつらホント暇なだけなんですよ。」

暇でも何でもいい。羨ましいのは事実だ。
自分も あんなに綺麗だったら、告白だってしているかもしれない。
カカシの… 遊び相手くらいには成れたかもしれない。


カカシの報告書は、いつもの七班のそれとは違い
子供に書かせたものではなく、自分で書いたであろう美しい書風の物であった。

「はい。不備は有りません。」

ポン… と判を押してカカシを見上げた時

「イルカ先生、今度の金曜日あいてますよね?」

そう聞かれたのだが

「 え? 」

聞き慣れない言葉を聞いたかのように
イルカはポカンとしてしまった。

「今度の金曜は受付入ってませんよね?」
「今度の… 金曜日… 」

ボーっとしながら机の中のシフト表を見る

「はい… 入っていませんが… 」

なんだと言うのか?

「あの、もし御迷惑でなければ飲みに行きませんか?」
「 ・・・・・ 」

 いま なんて?

「イルカ先生?」

返事もせずにポカンと此方を見ているだけのイルカに
余計なことを言ってしまったのか、それとも「こいつ何言ってんだ?」と思われたのかと
カカシは少し不安になった。

「 あの… 断ってくれてもいいんですよ先生…。」

見る見る沈んでゆくカカシに、助け船を出したのはイルカの隣に座っている同僚だった。

「おい、イルカ!何ボケーッとしてんだよ!はたけ上忍が誘ってくださっているんだぞ!?」
「 !!! 」

誘う?誘っている?誘われている!?俺が!?

「え、あのっ!俺?ですか!?」
「はいっ。金曜日に…駄目…ですか?」
「駄目だなんて!! 」
「じゃあ大丈夫ですね?金曜日、アカデミーの門の所で待っています。」
「あ…でも多少遅くなるかも…」

放課後になってから、いろいろやらねばならない事も有ったりするから…

「お店を教えて頂ければ、後から行きますのでカカシさん先に行ってて貰えますか?」

カカシを門の前で待たせるなんて出来るわけない。

「わかりました。店が決まったら連絡しますね。」
「はいっ!!ありがとうございます!!」
「 うんっ。 じゃあ 金曜日ねv 」

にっこり笑ってそう言い残し、ボンッと派手に煙を上げてカカシは消えていってしまった。

だが、カカシが消えて黙っていなかったのはくノ一達だ。

「ちょっと何よあれ!!」
「カカシ帰っちゃったの!?」

ブーブー文句を言いながら、二人の女は去って行ったのだが一人のくノ一が、腕を組んだまま何かを考えているかのように
黙ってイルカを見つめていた。





― 金曜日 ―

カカシは夕方、イルカに言われた通り先に店で待つことにして
店の名を書いた式をイルカに送った。

イルカはイルカでカカシからの式を大事にベストの胸ポケットに入れ
大急ぎで残りの仕事を片付けていた。


「 イルカ!! 」

そこへ先日受付に一緒に座っていた同僚が現れる

「どうした?」
「すまん!!今日の受付代わってくれないか!?」
「 え? 」
「おふくろが具合悪くなって…どうしても帰って来てほしいって言うんだ。」

 
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