捧げもの

□Shall we dance?
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今年もやって来ました忘年会シーズン。
この時期になるとイルカ先生がソワソワしだす。
今年は何をするのか教えてくれないが、俺に隠れてコソコソと準備中のようだ。

「せんせー今年は何やるの?」
「内緒です。中忍忘年会の事はお気に無さらずに。」
「いーじゃない。閉鎖的だな中忍社会。」
「他の班に内容がバレては困るので身内にも内緒という事になっています。」

変なところ真面目なんだから… って… 身内?

「うふふ… 身内かぁv」
「では集まりがあるのでお先に!」
「あ!!」

いつの間に支度をしたのか、まだ朝御飯を食べ終えていない俺を残して先生が出勤して行った。
最近は演芸の打ち合わせとかで早くから家を出ることが多く、俺はチョッピリ寂しい思いをしている。

「昨年は尻も見えそなスカートを身に付けて某アイドルの真似事をしていたしな…。」

隠しているのは、他にバレる事より俺にバレるのを恐れての事かもしれない。
また肌も露わなイヤらしい格好をするのかもしれない。
あ、まずいまずい。興奮しちゃって今から写輪眼ぐるぐるしちゃったv
――って、そうじゃなくて。どうしよう、また中忍忘年会に潜り込もうか?

「それしかないね!」

あっさりと決めた俺は彼の作った美味しい朝食をパクパクと食べ続けた。




「おはよう!」
「おう!おはよう!イルカ、衣装出来てきてるぞ。ほら。」
「おお〜素晴らしい。これ、終わったら貰っていい?」
「買い取りでどーぞ。」
「……金払うのか…。」
「当たり前だ。我々教師チームの運営費で買ったんだ。また使い回ししようと思ってるのに。」
「じゃあそうしてくれ…。」

イルカは手にした衣装… 漆黒の燕尾服を見て諦めた。
そうそう着ることも無いだろうが、持っていても悪くはない衣装だ。

「で、イルカはダンス練習したのか?」
「ワルツだろー?足の動きだけなら職員室や受付の机の下で練習してるぞ。」
「あとは相方のゲンマイと踊ってみるだけか。仕上がりが楽しみだな。」
「ゲンマイが来たら踊ってみるよ。別に完璧じゃなくてもいいんだろ?」
「いやいや、ちゃんと綺麗に踊ってくれた方がいいだろ。」

今年の教員チームのセンターはイルカと相方のゲンマイだ。
燕尾服を身に纏った男二人でワルツを踊るのだ。

「遅くなってすまん!」
「ゲンマイ!踊るぞ!本番は間近だ!」
「イルカ張り切ってるなぁ。」
「当たり前だ!今年の優勝者には米も当たるんだ!米欲しいだろ!」
「欲しいなぁ。嫁の喜ぶ顔が浮かぶよ。」

ゲンマイは愛しい妻の顔を思い浮かべて頷いた。

「よし!着替えろゲンマイ!練習するぞ!」
「おう!」

教員チームの意気も揚がり、朝早くから男同士のダンス練習が始まった。

『…ワルツ?』

天井裏から教員チームの練習を見ているのはカカシ。
イルカの燕尾服姿に萌えつつ、一緒に踊っているゲンマイという男に嫉妬していた。
男達は皆、燕尾服に身を包んでいる。
なかなか見ない光景だし、着ることも無いのだが正装というものは身を引き締めるのか誰もが輝いて見えた。

『特にイルカ先生v似合ってますよ〜 カッコいい〜v』

するとカカシはイルカとゲンマイが軽快にステップを踏み踊る姿を見ていて、これは俺でもイケるのでは?と思い始めた。

『先生と踊れるチャンスだーね。』

ワルツか…

いま、この場で皆が踊る姿を写輪眼でコピーしてしまおうかとも思ったが
どうせならプロの踊りをコピーした方が良いなと思い付き
その手のビデオをレンタルしてコピろうと、カカシはその場をサッサと退散してしまった。


「よーし。ワルツを踊る時間はこの程度にした方がいいな。」
「限られた時間内に納めんと減点されるぞ。」
「ワルツの曲がフェイドアウトしていくと共に後ろで踊ってる俺達もハケよう。」

そして舞台上にイルカとゲンマイだけが残ると急に曲調が変わる寸法だ。


  ♪デッデッデッデッ・デッデーデ…♪


そこで一瞬何事かとキョロキョロ辺りを見回す二人。しかし直ぐにポケットから付け髭を取り出し
鼻の下に髭をつけると当たり前の様に髭ダンスを踊り出す…  という流れだ。

舞台の袖からカートに長めのクナイと千本と、そしてイチゴ、ミカン、グレープフルーツを乗せた黒子が出て来る。
それを持たされるイルカとゲンマイ。

「いいか?咥えた千本にグレープフルーツはキツイとか思うなよお前ら。集中すれば千本でスイカだってイケるはずだ!」

じゃあお前がやってみろよとゲンマイはリーダーの男を睨む。
イルカは幸いクナイや千本目掛けて果物を投げる役だ。

「千本にはイチゴでいいだろ。十個いっぺんに放り投げてみるのはどうだ?」
「待てイルカ!受け取る俺の身にもなれ!」
「え?出来ない?仮にも中忍。仮にも教師だろうが!」
「お前は出来るのか!」
「うーん… はははは!!じゃあ三個は?」

千本にはイチゴとミカンを。クナイにはグレープフルーツを刺す事に決めた。

「おっと、今朝はここまでだ。皆 職員室へ戻ろう。」

燕尾服から いつものスタイルに着替えた教員宴会組は
今日も一日 未来を担う子供達を指導するべく職員室へと戻っていった。


その頃カカシはビデオレンタル店の前で開店を待っていた。
ダンスのビデオを借りて家で見ながら写輪眼でコピーするつもりだ。
華麗なステップでイルカをリードしてあげるのだ。

『足を踏まれても大丈夫。ま、踏まれるドジもしないけどね。』

開店と同時にウキウキしながらダンスレッスンのビデオを借りて行ったカカシだった。



 十二月某日 木の葉の、とある集会所
毎年恒例 中忍忘年会の会場に俺「はたけカカシ」は来ています。上忍なのに。中忍以外入場禁止なのに。

「よお、ゲンマイ遅かったな!」
「うん、人生という道に迷ってな。」
「はあ?何言ってんだ。ほら、イルカはもう着替え始めてるぞ。」
「!!!」

きゃーーー!!なんて格好!!
白いワイシャツ着て、下はまだズボンを履いていないなんて!!

「あれ?ゲンマイ遅かったじゃねーの。早く着替えろよ。」

むぅーーっ。そんな破廉恥な格好でシャツのボタンを留めながら、こんな男に近づいて来るなんて!
中身が俺だからいいものの、許せないよ!!

「早く着替えろよ。」
「え?あ、ああ。」

怪訝そうな顔を見せ、イルカ先生は漸くズボンに手を掛けた。

『着替え… この中か?』

ゲンマイとやらの持っていたこの手提げ袋の中に更にビニール袋に入った何かが有った。
開けてみると、イルカ先生と… いや、メンバー皆と同じ燕尾服が入っていた。
ワルツを踊る為の正装だ。
え?ゲンマイ?ああ、あの男ならこっちへ来る途中に捕まえて写輪眼で眠らせたーよ。
午後は冷えると可愛そうだから外に放置せずに近くの納屋の中に寝かせた。藁も掛けてあげたしね。

「ゲンマイ、お前ワルツのステップ練習したか?本番で俺の足踏むなよ?この前めっちゃ痛かったから!」
「え? …あ、うん。大丈夫。」
「?なんだ、元気無いな。怖気づいたのか?お前と俺は本番に強いからってセンターに選ばれたのによ。」

イルカ先生…
心配するのはいいけど、顔近づけ過ぎじゃない?いつもこうなの?誰にでもこうなの?

「教員チームの皆さん、そろそろ準備して舞台袖にお集まり下さい。」

いよいよ我ら教員チームの出番。そして舞台の上でイルカ先生をリードして華麗なるワルツを観客に見せつけるのだ。

『ああ… これで本当に俺の姿でイルカ先生と踊れたら…。』

舞台袖の薄暗闇の中、チームの皆と前の暗号部チームの出し物を見る。
俺は何気にイルカ先生の斜め後ろに立って彼の様子を見ていた。
真剣な眼差しで舞台上の男を笑いもせずに見つめている。
きっと頭の中はダンスを上手く踊る事でいっぱいなのだろう。

「くそぅ… 暗号部め、流行り物に手を出すとは…。」

流行り物?クナイとキウイフルーツ持って何やら歌ってるけど、あれが流行ってるの?
ヒョウ柄の服なんて着ちゃって趣味悪ぅ〜。

ワァー!と歓声と笑い声が上がり、暗号部の出し物は終わった。

「よーし。行くぞ!」
「「おうっ!」」

うわぁ〜ドキドキするね。俺ホントは教員でも何でも無いんだけどねv

暗い舞台上に各ペアが配置に付く。
俺(ゲンマイ)とイルカ先生は皆より前へ出て立つ。
そして先生の手を取り向かい合う。
照明が点きワルツの曲が流れる。
え?野郎ばかりのダンス? ザワザワと客席が俺達教員チームに注目した。

「一、二、三。一、二、三。」

やだ!イルカ先生ったら可愛いんですけど!小声で三拍子刻んでる!
そして俺の華麗なステップにイルカ先生は「??」てな顔をしながら小声で聞いてきた

「お前上手すぎね?どんだけ練習したんだよ。」
「まあね。やるなら完璧を目指したいでしょ?」
「……。」

イルカ先生がキョトンとした顔で俺を見た時
「ん?」曲調が変わっ…

♪デッデッデッデッ・デッデーデ…♪

何これ何これ!え?なんで?あれ?ワルツは!?
あ、後ろで踊っていた仲間が袖に掃けたし!

「おいっ」

振り向くとイルカ先生が小声で話しかけて来た。

「いつまでボーッとしてんだよっ。ヒゲヒゲ!」
「ひげ?」

あれ?先生の鼻の下に いつの間にやらヒゲが…

「ポケットに入ってんだろっ。」

ポケット?ポケ… あ、入ってた。これ?これ付けるの?
て、同じく口髭を付けてイルカ先生の方を見ると今度は先生が一人で踊ってるぅっ!!!

♪デッデッデッデッ・デッデーデ・デッデーデ・デッデーデ…♪

え?何?俺?俺も踊るの?なに?
にっ睨んでる先生… はいはい…踊れって事ね… なにこれ…
取り敢えず先生と同じ動き… 肩をいからせて両手のひらを真下に向けて踊ってみた。
それにしても何なの この軽快な音楽。

舞台袖から仲間が何やらカートに乗せて持ってきた。

『?果物にクナイと千本?』

キョトンとしながらも踊っていると、イルカ先生が千本を持って俺の方へやって来た。 え?口に?

「早く咥えろよ。頼むぞゲンマイ。イチゴ三個大丈夫だったよな。」
「…………。」

何となく理解してしまった。ここからが宴会芸の本番… ワルツは前置き…
咥えた千本にイルカ先生が果物を投げて寄越すってワケね…
それを上手くキャッチするのが俺の… ゲンマイの役目。

『聞いてないよ先生ぇ…』

グスンと泣きたくなってきた。
泣きたいのを我慢して先生が投げてくるイチゴを一つ千本で受け止める。


―舞台袖―
 「ゲンマイ元気無いな。練習怠ってきたか?」
 「気力無いの駄々漏れだけど余裕で千本にイチゴ三個、蜜柑二個を次々と受けとめてるぜ?」
 「あ、ゲンマイの気力の無さに腹を立てたのかイルカの奴…」
 「パックごとイチゴ投げつけたーー!」
 「って… マジか!全て刺さってる!ケースまで針先で捉えてるぅ!」
 「客席どよめいてるぜ?凄すぎて引いてるぜ?」


ん?あれ?先生唖然としてる。どーしたの?これもう終わり?

「つっ次はクナイで…」

ゼェゼェハァハァ怒りと驚きを鎮めるかのように肩で息をしながら先生がクナイを持ってきた。
なので今度はクナイを口に咥える。

「ゲンマイ… 相当練習してきたようだな。甘く見てたぜ。」

自分の定位置に戻る前に先生がニヤリと不敵な笑みを浮かべて そう言い残していった。 素敵!
そして俺は必死にミカンやグレープフルーツを投げてくるイルカ先生に微笑みかけながら
次から次へとクナイに刺しては横に捨て、クナイに刺しては横に捨てを繰り返した。


―舞台袖―
 「……ゲンマイの奴……凄え余裕かましてっけど。」
 「そんなゲンマイにイルカが納得行かないって顔してっけど。」
 「!!イルカの奴、飾り用に置いておいたスイカに手をかけたぞ!?」
 「それをクナイで受けとめろってか!?」
 「ゲンマイ顔面で受けちゃうぞ!?」


あれー?最後はスイカ?でもクナイで受けとめられるかな〜。
長めのクナイだから刺さる事は刺さるよね。それとも切り分ける?

「死ねぇ!ゲンマイ!!」


―舞台袖―
 「いやいや、悔しいのは分かるが教師が言うセリフではないぞ?イルカ。」
 「いいんじゃね?俺達忍者なんだし。」


先生が凄い勢いで一玉のスイカを投げつけて来た。
刺す?刺してから切り分ける?それにしちゃう?

客席がどよめいた。
ゲンマイはサクッと西瓜をクナイの先で受けとめたかと思うと、そのままポイッと上に放り投げ
落ちてくる西瓜を咥えたままのクナイで切り分けたのだ。
イルカも舞台袖の仲間も唖然だ。

♪デッデッデッデッ・デッデーデ…♪

曲が大きくなり、時間となって幕が降りた。

「や… やるなゲンマイ。」イルカの笑顔がひきつっていた。
その後 無事に演芸大会も終わりイルカとゲンマイ(カカシ)の奮闘も虚しく教師チームは準優勝と終わった。

「優勝は暗号部かぁ…。」
「流行り物をやればいいって訳じゃねーのになぁ。」
「KKAKだろ?」
「何それ。」

聞いた事のない暗号

「えー?知らねーの?クナイキウイアップルクナイでKKAKだよ。暗号部がやってただろ?」
「クナイにキウイ刺して歌ってたやつ?」
「そうそう!アイ ハヴ ア クナ〜イって歌ってたやつ!」
「へえ。」

なんだかよく知らないが流行りの宴会芸ネタなのか。
それにしても中忍忘年会って面白い。
来年も潜り込んでやろうかねぇ?

「ゲンマイ。二次会行くぞ。」
「あ、うん。先行ってて。」

そろそろ本物を起こしに行かなくちゃだ。
いつまでもイルカ先生と夢の中でワルツを踊らせていては風邪をひかせてしまう。
皆が部屋を出て行くのを見送ったあと、瞬身で納屋に戻ると彼を担いでまた戻り、燕尾服は袋に戻しておいた。


それにしてもイルカ先生とワルツを踊った時間の短かった事。
もう俺の頭にはワルツよりも軽快に髭ダンスを踊るイルカ先生の姿しか残っちゃいなかった。

♪デッデッデッデッ・デッデーデ…









 



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