*過去拍手文2*
□クリスマスイブ(後編)
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ピンポーン
呼び鈴を押すまで、カカシは五分程ドアの前に立っていた。
変な期待ばかりが頭の中で膨らみ、興奮してしまって鼻息が荒いのが自分でも分かったから
『駄目駄目。ギラギラしてたら退かれちゃう。』
深呼吸して 手にぶら下げた酒が入った袋の持ち手をギュッと握り締める
そして冷静に考えた
もしかしたらイルカには イブの夜に自分を…だなんて
そんな気は毛頭無いのかもしれない。
『…だよね。そんなうまい話が有るとは限らない。』
そして心を落ち着けると呼び鈴に手を伸ばしたのだ。
数秒後 扉が開かれイルカが顔を出す
「カカシさん、いらっしゃい。寒かったでしょう?さ、お入りください。」
「うん。お邪魔します。」
二人はお互いに気づかなかった
どこかギクシャクとした言葉のやり取りに。
部屋に入ると窓辺に小さなクリスマスツリー
室内は暖かく 卓袱台の上には、いつもとは違った御馳走が。
「ケーキ、少しなら食べられるって言ってましたから。買っちゃいました。」
小さなホールケーキの上にはサンタクロースとトナカイが乗っていた。
「凄いなぁ。クリスマスって楽しいですね。わっ、寿司まで有る!先生奮発したね?」
「 えへへへ 」
鼻傷をポリポリ掻いて 照れ笑いをする彼が愛しすぎて
「ね、いま少しだけ抱き締めていい?クリスマスだからいい?」
「カカシさん…」
「嬉しすぎて先生を抱き締めたい。」
「いいですよ。俺もカカシさんを抱き締めたいです。」
この人は 今まで誰かとクリスマスを過ごした事も無かったのか
こんな小さなケーキに目を輝かせ
小さな子供の様に頬を染めて喜んでいる。
イルカもカカシが愛しくて堪らなかった
二人はギュッと抱き締めあう
「あ そうだこれ、先生に。」
「綺麗な花束ですね!」
「嬉しい?こんな物で良かった?」
「こんな物って何ですか。すごく素敵なプレゼントですよ?」
ちょっと待ってと イルカは奥の部屋へ行き
何やらガタガタと押し入れの奥を探っていた。
「有った有った。この花瓶に生けましょう。」
イルカは花瓶に水を入れ、カカシから貰った花束を生けてみた。
「ツリーの横に置きましょう。華やかになっていいですね!」
あ、そうだ!と、イルカも自分の座布団の側から平たい箱を持ってきた。
「これカカシさんに、です。」
「 え? 」
「プレゼントです。あの… 好みじゃなかったら箪笥の肥やしにでもして… カカシさん?」
カカシは受けとる為の手も出さず
茫然とした表情でイルカの差し出したプレゼントを見ていた。
カカシの頭の中で“美味しい展開”が音を立てて崩れ落ちたのだ。
『やっぱりプレゼントは…“俺”とかじゃなかった…』
イルカは既にこうしてプレゼントを用意していたのだ
『普通の人の交際は道が険しいんだね…』
プレゼントは私、なんてのは
特殊な人間の間でしか起こりえないシチュエーションなのかもしれない。
「あの… カカシさん。」
「あ!まさか先生からプレゼント頂けるなんて思ってもいなかったから! …開けていい?」
「 はい! 」
平たい箱の蓋を開けると上品な無地のマフラーが入っていた。
「暖かそう。」
「 ! もう巻いちゃうんですか!?」
「首に巻きっぱなしだから帰る時も忘れないよ。」
「あ… あはは… 」
カカシは今夜も家に帰されると思っているようだが
『じゅ…準備万端です!カカシさん!』
カカシに聞こえるはずは無いのだが、そう心の中で叫んだだけでウワーッと顔が赤くなった。
「 ? 先生暑いの?顔真っ赤だよ。」
「うわあっ!は、はいっ!大丈夫です!ささ、食べましょう!」
いつものように卓袱台を挟んで向かい合わせに座るつもりが
「 カカシさん? 」
カカシが自分の座布団を持ってイルカの横で立ち止まった
「クリスマスは恋人同士には特別なんでしょ?今日は特別 先生の隣に座らせて欲しいです。」
片手に持った座布団を、だらりと床に付けたまま
情けない顔で此方を見ているカカシが
まるで「眠れないから一緒に寝てよママ。」と、深夜に親の寝室へ来た子のようで
「いいですよ、此方へどうぞ。」
イルカはクスッと笑顔で迎えてあげた。
「では メリークリスマス!」
カカシが持参したシャンパンで乾杯をし、グラスに口を付け終わると
どちらからともなくクスクス笑いだし、顔を寄せあうと軽くキスをした
「 …先生… 」
「 さあ!食べましょう!あー腹減った!」
「 …… 」
いつもと変わらぬ調子のイルカに、カカシも淡い期待は全て捨て去り
「せんせー 今日の唐揚げ一段と美味しいです!」
食べて飲んで
イルカと二人きりのクリスマスを楽しむことにした。
「あ、もう日付が変わるね。」
二人でお互いの過去の悲惨なクリスマス話をして盛り上がっていた。
如何に寂しいクリスマスを送って来たか…
笑い話で花を咲かせて楽しい時間もアッと言うまだった。
「楽しいと時間が経つのが早い。俺は先生とこうしている時は いつも早く感じる。」
今夜はお泊まり無しかな。でも特別な夜だから隣の布団で寝るだけでも駄目かな。
イルカから何か気の利いた言葉が出ないかしらとカカシは思う
期待はしないけど
「ではパーティーもお開きにしましょうか。」
「あ、うん。そうですね!えっとあの… マフラーありがとうございました。」
カカシはスクッと立ち上がると
「片付け手伝ってから帰りますね。」
ハハ… と明るく笑ってみるものの
作り笑顔は そう長くは持たないものだ。
カカシは汚れた皿を重ねて台所へ向かう
「もう 遅いから」
「 え? 」
声をかけられ振り向くと、座ったままのイルカが
握り拳を作った右手を卓袱台に乗せ、下を向いて顔を真っ赤に染めていた。
「先生 いま… なんて?」
「今日は…泊まってもいいです。」
「 ……… 」
カカシは皿を持ったまま戻り、イルカを見ながら卓袱台の上に皿を戻して彼の前に座った
「あの… 先生… 今夜泊まっても?」
「もう言いません。聞いてなかったんですか。」
イルカは不貞腐れたような、ばつの悪いと言った感じの赤い顔で
ずっと斜め下を向いていた。
『いや、待てよ俺。ここで喜んじゃ駄目だ。ただ寝ていけって意味かも。』
「え…えーと… それじゃあ、あとで自分の布団敷きますね!あはは!クリスマスに先生と過ごせて嬉しいです!」
「布団… 敷かなくていいです。」
いやいやいやいや ちょっと待て
「せんっ…先生いま、今なんて言っ…!」
急にイルカに手を引かれ、寝室に連れて行かれた。
「あの、先生?」
「今日はっ、い、一緒に寝っ、寝ていいです!」
「 ……… 」
「 カカシさん? カ… !!」
掠れた声で「先生っ」と カカシに抱きつかれベッドの上に押し倒される
「カカシさん…」
上から覆い被さり イルカの肩に顔を埋めたまま、しばらくカカシは動かない。
感極まっているのだとイルカは思った。
「カカシさん、待たせてごめんなさい。俺っ頑張りますんでっ!」
イルカの耳にはカカシの荒い息づかいが聞こえていた
「せん…せ。」
「はいっ。」
イルカはギュウッと目を瞑り、今か今かとドキドキしていた。
「せ、せんせ。ねぇ、先生。」
「 ? はい? 」
様子がおかしいので、そっと目を開ける
「せんっせんせー、鼻血出ちゃったよ。」
「 は? 」
こちらを見下ろすカカシが、涙目で鼻をつまんでいた。