*過去拍手文2*

□六代目の憂鬱
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先輩が火影になった

六代目火影 はたけカカシの誕生だ。

秘書はイルカさんだろうって?
ははは!とんでもない。
御意見番が決めていた優秀な上忍(女性)が付いたんだ。

てっきり自分の意見が通ると思っていた先輩は
「秘書イルカ」計画をあっさりと却下され
むしろイルカさんの多忙さと教師としての道も考えてやれと、たしなめられ
妥協してブーブー文句を言いながら今日に至るのだ。

先輩としては、いつも傍にイルカさんが居ることを望んだのだろうが
周りの人間は、それだけは絶対に阻止するつもりだったらしい。

イルカさんの多忙さも、教師としての道を断(タ)ってしまうのも

確かに考えさせられる所ではあるが、それは建前。
イルカさんを傍に置いたら仕事に身が入らなくなるのは目に見えて判っていたからだ。



毎日毎日 机の前に座り、山積みにされた書類一枚一枚に目を通しては判を捺す。

今まで我々と共に現場で活躍していた先輩が
急に老人になったかのような生活。

写輪眼を失くしたとは言え
彼ならまだまだ僕達後輩が足下にも及ばない技を繰り広げ
敵を一網打尽に出来るであろう お人だ。


とにかく


相変わらず火影になっても飄々とした風情ではあるが
先輩は火影としての役目をこなしつつ、なんとかやっているようだった。

ようだったのだが。


「ねえ、火影になって二週間。俺は大人しく任務…もとい…あ、でも火影としての“任務”だね。その…いろいろとさ。」

先輩 どうしました

「こなしてきたよね?文句も言わず。」
「文句もって…。火影様、火影職を何だとお思いですか?」

眼鏡秘書に、たしなめられてるよ。
おいたわしや先輩。

「いや、あのさ。そろそろ家に帰ってもいいよね?って事だーよ。」
「 ? 帰られているではありませんか。」
「違ーうよ。俺の本当の家だよ。暖かい家だよ。」

実は先輩は、恐い先代を含む上からの命令で
火影は火影屋敷に住む事と命ぜられ
しかもそれを聞いたイルカさんからも
「火影になったからには、そうして当たり前です!」と素気(スゲ)なく言われ

じゃあ取り合えず半月くらい我慢して屋敷に帰ってみる、と誓っていたのだ。
付け加えて教えますと、先代の綱手様からは
「少しの間 イルカを断(タ)ってみろ!」とも言われている。
しかもその時 傍にいたイルカさんまでが綱手様の力強い意見に共感し
ウンウン大きく頷いて「カカシさん!ガンバです!」と両手で拳を作り
幼い我が子の成長を見守る母親の如く檄(ゲキ)を飛ばしていた。

あの時 「え?」て言う、裏切られたような悲しい顔の先輩に
思わず吹き出しそうになったから危ない危ない。

結局イルカさんにも見離され… もとい、檄を飛ばされてまで見送られた先輩は
火影就任後には已(ヤ)む無く真面目に執務室と新しい住まいとなった火影屋敷を往復する生活を送っているのだ。

要するに 「禁イルカ」
禁欲の日々を送っているわけだ。

忍びたるもの 性欲くらい制御出来ずしてどうするんですか先輩。

まあ昔と違って今は平和になりましたし
いつでも会える距離に恋人が居るんだから仕方ないですかね。

「火影様、せめて今 目の前にある書類だけでも処理して頂かないと困ります!」
「目の前の?」
「そうです。」

あ。先輩の微かな殺気が揺らめいた。ちょっと頭に来たらしい。
眼鏡秘書くん大丈夫かな。

屋根裏で呑気に構えていた僕は、少し心配になり
天井の板をちょっとだけずらして部屋の中を見下ろした。

おお!先輩が ゆらりと立ち上がったよ!

「あのさぁ…」

そして秘書との間合いを詰めて…
出た!壁ドンだ!眼鏡美人秘書を壁ドンだ!
いいのか?イルカさんを差し置いて。

「あんた、あの机の上の紙一枚一枚に目を通して判を捺すのに…」

先輩が壁に付けていない方の空いている片手で顔のマスクをするりと下げた

出たー! てか、出したー!伝家の宝刀!!
誰もがイチコロになる(注。イルカさんには効かなかったらしい)先輩のお美しい素顔だ!

「どれだけの時間がかかると思ってるの?」
「見たところ、私でしたら丸一日有れば。なので六代目様でしたら…そうですねぇ…」
「 ……… 」

あれあれ? 彼女に先輩の宝刀が効かない?
先輩困っちゃってるよ。

秘書くんは顔色ひとつ変えずに何やら電卓の様なもので
先輩が今有る書類を片付けられる時間を計算して弾き出していた。

「わたくしが二十四時間でしたら、六代目様なら十八時間も有れば処理なされるかと…。」
「 …くすん 」

あ、壁から離れた先輩が鼻を鳴らし始めた。
こりゃもしかして、もしかしなくても…

「くすんくすん。 テンゾウ!居るんでしょ!?」

ほら来た

「は。此処に。」

ちょっとヒステリック気味な呼び出しに
僕は透かさず彼の前に片膝をついて頭を垂れて現れた。

さてさて 何を言い付けるつもりか

まさか代わりに書類を… て訳ではないだろうな。
さすがにそれはマズイでしょう。

「あのさ」と、先輩は
先ず秘書に向かって声をかけた。


「ちょっと席を外してくれる?大事な任務の話が有るの、この男と。」
「かしこまりました。」


眼鏡秘書くんは大人しく先輩の命令通りに退室した。

「聞いてたでしょ?テンゾウ。」
「書類の処理に十八時間ですか?馬鹿にしてますね、先輩ならそんなに…」
「ちーがーうっ。俺を恋しい我が家へ帰してくれない。」

わかってましたが惚けました。

「お願いが有るんだけどテンゾウ。」
「書類に関しては無理ですよ先輩。あれは全て…」
「わかってるよ。本人じゃないとサインも判も反応しない事くらい。」

先輩が「六 火」と刺繍された背中を見せる。

「ねえ、俺もう二週間もまともに先生の顔見ていないんだよ?」
「先輩、影分身で何とかならないんですか?」
「それは駄目なの。先生が“影分身とかで抜け出したら見損ないますからね”って。」

くすんと再び鼻を鳴らした先輩は
くるりと振り向き、少し涙目で僕に訴えた。

「きっと先生も寂しいのを我慢していると思うんだ。」

なるほど

「ねえ、ちょっと今夜あたり様子を見てきてよ。」
「は?僕がですか?」
「もちろん風呂から先はダメー。俺の事が恋しくて就寝時に一人でイイ事してるかもだしv」

見たくは有りませんて。入浴シーンもです。

「と言うわけでさ、先生がどう過ごしているか見てきてよ。」

僕は一拍置いてから、困った人だなぁと面の下で顔に出し

「わかりました。」と承諾した。




そうして その日の夕刻
僕はアカデミーから自宅へ帰るイルカさんの後を付けた。











 



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