*過去拍手文2*

□六代目の憂鬱B
1ページ/1ページ




部屋へ戻ったイルカさんは、先ずは御茶を飲みながら何やらプリントをチェックし始めた。
その後しばらく暗くなるまで仕事の残りらしい事を続けていたが
両手を頭上高く上げて伸びをすると、漸く立ち上がってトイレへと向かった。

『家まで仕事持ってきて構ってくれないと先輩が嘆いていた事が有ったな…。』

イルカさんはトイレから台所へ直行すると、手を洗って食事の支度を始める。
米を研いで炊飯器の早炊き機能で御飯を炊き始めると
鯵が焼けるまでの間に手際よく味噌汁を作ったり野菜を切っては炒めたり…
でも皿にそれを盛り付けるとき、ふと手を止めて
下向き加減に空(クウ)を見つめて何か考え事をしているかのような顔を見せた。

『もの悲しげな表情…もしかしてもしかしなくても…』

カカシ先輩の事を考えているに違いない。
今となっては一人の食事が淋しいのかもしれない。

『先輩に伝えるべきか…。』

いやいやいや。駄目だな駄目だ。そんな報告をするのは。
きっと先輩のことだ、仕事放り出してイルカさんに会いに来るに違いない。

『鼻唄まじりに料理をしていた…とでも伝えよう。』

楽しそうに?なんて怪訝そうに聞くだろうから
その時は「いえ、至極普通に。」と無難に答えておけばいい。

野菜炒めにカレーコロッケを添えた皿を手に
イルカさんは「よっこらせ。」と卓袱台の前に腰を降ろし
テレビを見ながら夕飯を食べ始めた。

『えーと…番組はクイズバラエティだな。』

もぐもぐと咀嚼しながら、真剣に見入ってる。  真剣に?
いや、違う。あれはテレビを見ているようで見ていない… 心ここに有らずな顔だ。
番組内ではコメディアンの珍答に出演者達が大爆笑しているのに
イルカさんはニコリともせずに、口をもぐもぐ動かしているだけだ。

『!!イルカさんが向かい側の座蒲団辺りを見ている…』

先輩か!?先輩の事を考えていて番組内容なぞ頭に入っていないのか!!

そうして彼は先輩が本来座っているであろう場所を見ながら
漬け物を箸で摘まんで口に入れていた。

『おいたわしやイルカさん…。本当は先輩に会いたいのを我慢なさっているのですね? て、え?』

彼の目から光るものが!!な… 泣いている!?

「くそっ、カカシさんのバカ野郎…。」

あああああ!! やはり先輩が恋しいのだ!!
イルカさん!!もう少しの辛抱です!!
仕事が一段落したら、きっと先輩も帰ることが出来るはず!

その後は何かが吹っ切れたのか、バラエティ番組を大笑いしながら食事も済ませ
浴室の方へ移動したので僕は任務を終了とさせた。

先輩は本当に愛されている。 羨ましくもあり、ちょっぴり妬けもした僕だった。



「魚屋で鯵か。…惣菜屋には寄らなかった?あそこの奥さん美人なんだけどさ。」
「行きませんでした。魚だけ買って帰り、魚を焼きながら鼻唄まじりに野菜炒めを作ってました。」
「鼻唄まじりに?楽しそうに?」
「いえ、至極普通に。えーと、食事はクイズバラエティを見ながら…まあ、普通に食べてました。」
「イルカ先生… 少しも寂しそうじゃなかった?」
「えーと、まあ普通です。楽しそうでもないかなーって程度に。」
「………お前の報告は下忍以下だね。」
「 うっ。 」
「普通 普通って、何がどうやって普通なのさ。俺が見る事が出来ないイルカ先生の顔を見に行ったくせに!」
「え?でもこれは先輩が…」
「もういいっ!お前なんかに解るものか!先生はきっと毎晩俺の事が恋しくて、枕を涙で濡らしているんだよ!」

可哀想に!せんせー可哀想に!!

先輩… もとい六代目は「イルカ先生待っててね!」と叫ぶと
「明日の朝までに片付けてやる!」と、物凄いスピードで書類に目を通しては判を捺し…を繰り返し始めた。

「えー…と。では、僕はこれで…。」

聞こえているのは間違いないので(多分返事をするのが億劫なだけ)僕はペコリと御辞儀をすると
「くそーっ!写輪眼が有れば!」と嘆く六代目を部屋に残して屋根裏へと消えた。





イルカは秋刀魚が食べたかった。
今日魚屋で見かけた秋刀魚が、ふっくらと背も盛り上がり脂も乗っていそうで美味そうだったから。

『くそー。魚屋のおばちゃんめ、鯵をゴリ押ししやがって!』

野菜炒めを皿に盛り付けながら、つい遠くを見つめて腹立たしさを思い出していた。

ひとりの食事は気ままだ。

肉ばっかり食い過ぎだの、野菜をもっと食べなさいだの
煩く言う奴が居ないからだ。

『朝も納豆御飯だけで簡単に済ませるし〜。』

面倒な訳でもないが、自分の他に人が居ると、納豆と白米だけでは済まされない。
一応味噌汁を作ったり、漬け物を切ったり…

『なんだよこのコメディアン。』

テレビでは、クイズの回答を面白おかしく言って笑いを取っているコメディアンが映っていた。

『この前も違う番組で同じ様な言い方をして笑いを取ってたぞ?芸が無さすぎだ!!修行が足りんっ!』

顔を観るのも不愉快で、画面から視線を外して卓袱台の向かい側を見る。

『カカシさん頑張ってんのかな。昨日職員室に漬物が届いていたけど。』

どうやら頂き物のようで「代わりに食べてねv先生の好きな辛子漬けだよv」とメモが添えてあった。

そうして今夜初めて食べてみるのだが

『!!ぐおーっ!辛い!辛すぎるっての!!』

鼻の奥にツンと来た

「くそっ、カカシさんのバカ野郎…。」

思わず鼻を抑えて涙を流す

でもまあ… 漬物を自分で渡しにも来れないくらい彼は忙しいのだ。頑張っているのだ。

『そろそろ音(ネ)をあげる頃かな?』

クスッと笑って再びテレビを見始め
まだ一人の時間を満喫したいから当分帰って来なくていいぞーと
心の中で叫ぶイルカだった。












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ