*過去拍手文2*

□秋深し隣は何をする人ぞB
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ポカっと目を覚ましたのは
見慣れぬ天井。何処ぞの四畳半。

ああ… そうだった。
風呂を壊して仮の住まいへ移ったのだった。

畳に直に敷いた煎餅布団からムクリと上半身だけ起こし
ポリポリと片手で後頭部を掻きながら
さて数日の住まいとは言え、やはりお隣さんくらいには挨拶をしたほうが良いのでは?と考え改めていた。

『気配消しっぱなしなのも疲れるし。廊下から見れば台所の小窓の灯りとかで住んでいる事バレるでしょ?』

しかし本当に数日の事だから、会わずに終わればそれまでだしな…とか
あーでもないこーでもないと、やや暫く布団に座ったままボーッと考えあぐねていると

「よう!おはよう!これから?」

下の階 階段の下辺りで階下の住人同士が会話しているのが小さく聞こえてきた。
おそらく普通の聴力の人間なら聞こえはしないだろうが。

「今日は南方の警備だよ。」
「ご苦労さん。俺は夕方から受付だ。昼間は演習場の見回り。」

うんうん。 ご苦労さん。
俺は休みだけど、皆さん今日も一日頑張ってくれ。

「よし。弁当オーケー!行ってくるか!」

盗み聞きするつもりは無かったのだが
階下の住人の話に耳を澄ませていると隣の声まで聞こえてきてしまった。
どうやら彼も御出勤らしい。

「一人住まいの男が弁当まで用意しているのか…」

よほどの倹約家なのか、それとも料理が好きなのか。

「 !! 」

隣の男(確かイルカと呼ばれていた)がこちらの部屋側に近づいて来たようで
その足音は壁近くで止まった。
何をしているのか?
イルカは暫く黙って佇んでいるようだったが
もしかしたら隣の部屋の様子が変わった事に気付いたのかもしれない。
カカシが、そう思った時

「じゃあ…行ってくるね。父さん、母さん。」
『父さん… 母さん?』

その後イルカの足音は玄関の方へと消えて行き、ドアが開閉され
鍵を閉めた後に「よし!」と確認して階段を降りて行ったのだが…

壁の前での沈黙 気配も感じられない両親への挨拶
多分 もの言わぬ写真の中の両親に話しかけていたのではないかと推測出来る。
彼の両親は?里の何処かに住んでいるのか。それとももう既に…
九尾が現れた夜に戦闘に加わっていたのなら…
それとも何かの戦で戦死されたのか?

『…なんだろね…俺とした事が。』

顔も見ていないお隣さんが気になるなんて。
昨日耳にした階下の住人と彼の会話で聞いた耳に心地よい声が
よほど自分のツボ… 何か好感が持てるツボを突いたのだと思われる。

『うーん… やはり挨拶でもして顔を見てみるべきか?』

きっと帰りは昨日と同じくらいかと思われるが…

「それまで西の森… うーん… 裏山で修行でもしてきますか。」

それと忍犬達の手入れだな そう呟きながら
カカシは漸く布団から抜け出し、洗面所へと向かった。



カラスが鳴きながら森へと帰る頃
カカシは四代目の顔岩の上でパタリと本を閉じて里を眺めた。
今日は崖登りや忍犬の手入れで時間を潰したが
休日はまだまだ続くので、どうしたものかとボーッと考える。
里のあちこちから夕飯の支度の煙が棚引く。
秋刀魚でも食べたいな…と、腹が減ってきた。
定食屋で秋刀魚定食でも食べて帰ろうと立ち上がり、尻のホコリを払っている時
ふとお隣さんの事を思い出した。

『食べて帰ったら帰りがかち合うかな。それとも先に帰っているかも?』

まあどちらにせよ、顔を見てやるには良い機会だと思い
とにかく今は腹を満たすのが優先とばかりに
カカシはピョンピョンと顔岩を跳ね降りて行った。


そうして夕暮れも、すっかり星空へと変わる頃
定食屋で作ってもらった明日の朝食用のお握りの包みを手に
カカシはいそいそと仮の住まいへと戻った。
灯りが点いているのは下の階の部屋、カカシとは逆の角部屋にひとつと
二階は何処も灯りなど点いてはいなかった。

「みんな忙しいんだーね…。」

ポツリと呟き、足音も立てずに階段を登る

古びたドアに鍵を差し込み玄関へ足を入れた時
アパートに近づく足音が聞こえてきたので速やかに静かに扉を引いて閉めた。

『あ。また隠れちゃったな。職業病だね、どーも。』

玄関内の灯りを付けずに気配を消して潜んでいると
足音は階段を登ってきたのだが…

「うふふ。今日は一緒にお風呂入るぅ〜?」

可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。

「何言ってんだ。…それより静かにしてろよ、ったく。」
『 え? 』

女の子の声に応えていたのは間違いなく隣の…イルカという男だ。
あの清々しい声がヒソヒソ声となってイヤラシく聞こえる。

『なんだと!?女人禁制じゃないの?このアパート!』

誰もそこまで言ってはいないのだが、出しぬかれたようでムッとした。
気付かれぬように、そ〜っと扉を数ミリ開けて隣を見ると
イルカの後に続いて入る女の姿だけがチラと見えただけだった。
既に顔は玄関の中に入っていて、後頭部とグラマラスな体だけが目に入ったのだが…

『服の上から見てもわかるナイスバディ。それに、長くたおやかな金髪ツインテール…。』

益々ムカつく。 清々しい声をしているくせに!
よ…夜はどんな声を出すってんだ!

『あ、いやいや…。あの女が、だよ?』

誰にともなく言い訳をする。

『…ま… いいか。』

どうせヤル時は結界でも張るんだろ?
自分だったらそうするし… と、靴を脱いで部屋へと戻る。
何となく部屋の灯りを点ける気にもならず
風呂にチョロチョロと湯を貯めだした。

「お風呂一緒に入る〜?か。」

ポツリと呟くとフッと鼻で笑って
久しくそんな事も無いなぁ…と、寂しい我が身に心の中で涙した。







 



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