*過去拍手文2*

□秋深し隣は何をする人ぞE
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イルカと酒屋に向かう途中で、名は名乗ったカカシだったが
隣に住んでいる事は言えずじまいだった。

『うーん… 何故か言えなかった…』

このまま言わなくても、あと数日で居なくなるのだし…
黙っていても構わないだろうと決めた。

「カカシさん、ですか。ん?どこかで聞いた事が…」
「よくある名前です!あ!あそこの酒屋で買いましょう!」

写輪眼のカカシと知られて身構えられるのも嫌なので話をそらした。

「この辛口の酒が美味いんですよ。イルカ先生は大丈夫?」
「ええ辛口大好きです。ふふふ…」
「なに?」
「いえ、生徒の様に“イルカ先生”だなんて呼ばれるものですから…。」

クスクス笑うイルカに釣られてカカシまでもが小さく笑った。

― この人と居ると心地良い。 ― 

カカシの心の中で、イルカを思う気持ちが膨らんでゆく

「だって学校の先生でしょ?俺にもイルカ先生って呼ばせてください。」
「お好きにどうぞ。でも“イルカ先生”は結構厳しいですよ?」
「いいですよ。よろしくお願いします。」
「ははは。」

買った酒を片手にアパートへと戻る。
二人で他愛もない会話を交わしながら歩いていたが
イルカが ふと立ち止まり首を傾げた。

「?どうかしました?」
「いえ、カカシさんが俺より先に足を運んで前へ進むのは構わないのですが…」

俺んちを知ってるかのように角を曲がったりするので驚いちゃって。
イルカに言われてギクリとした。
危ない危ない。住んでるアパートが同じなものだから、つい。

「あ、ハハハ!単身者の中忍用アパートかと勝手に思って…。合ってました?」
「あ!なーんだ!アハハ!流石です!その通りで、俺はそこに住んでいます!」

さすがだなぁ、と感心しながら歩くイルカに
本当の事を言えずに終わった事が心苦しい気もした。
カカシにも見慣れてきたアパートの階段を
初めて来たかのようにイルカの後からゆっくりと上がって行く。

「古いアパートでしょう?上忍にもなれば、もっと良い所に住めるのでしょうが。」
「どうなんでしょうね。」

はは… と小さく笑ってはみたが、上忍宿舎の方が造りが良いのは確かだ。

「さ、どうぞ。汚い所ですが。」

玄関に入り、カカシは何か違和感を感じた。 何かが自分の部屋と違う。
きょろりと室内を伺うが造りはどう見ても同じ。

『…住んでいる人の生活の違い…てとこか?』

居間に入ると、それは更に強く感じた。

「今、準備しますね。座って待っててください。」

テレビでも点けましょうか?
そう言いながら座布団を一枚卓袱台の前に出して、いそいそとイルカが部屋の中を動き回った。
出された座布団に腰を下ろし、賑やかなテレビに目もくれず
カカシは何気なく部屋を見回す。
何が違うのかと言えば、何もないカカシの部屋と比べれば
家具も有るし壁にカレンダーや、何やら予定表のような物まで貼られている。
本が沢山置かれた本棚の一番上には写真立ても幾つか。
あの本棚の後ろの壁の向こうはカカシの部屋だ。

『学級写真… 担当クラスか?それに…。』

黒髪を一つに結わえて口髭の有る男性と
笑顔がイルカに似ている優しそうな女性が並んでいる写真。
おそらく彼の両親なのだろう。

― じゃあ…行ってくるね。父さん、母さん ―

朝、彼が挨拶していたのは、この写真に…なのだ。

「先生は…ここに住んで何年?」
「中忍になってから直ぐくらいだから…かれこれ七、八年と言っところでしょうか。」
「…そう。」

男の一人暮らしにしては、やけに温かみのある部屋に
いつしかカカシも ほっこりと腰を据えていた。









 



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