*過去拍手文2*

□秋深し隣は何をする人ぞG
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「泊まって行かれますか?」

イルカの誘いに他意は無いだろうが
この部屋で彼と一晩過ごせる事に柄にも無く頬を染め
「よろしくお願いします。」と消え入るように返事をしていた。
もちろん愛読書のイチャパラのような展開など期待はしていない。
とにかく彼と過ごせる事が嬉しかった。

「先生不用心ですね。オレがもし悪い奴で朝には部屋の物も無くなっていたらどうするんですか。」

ふと、心配になった事が口をついて出る。
彼は里の仲間だからといって誰でも彼でも こうして接待すると言うのか?

「まさか。俺は人を見る目に自信があります。カカシさんは良い人だってわかります。」
「イルカ先生…。」

イルカを好きだという気持ちが加速していくカカシは
自分が隣に住んでいる事を正直に打ち明けようかと喉元まで言葉が出かかった。

「あの…」

 ピンポーン

「ん?誰だろう。」

不意の夜の訪問者にイルカが腰を上げて玄関へと向かった。
また言いそびれてしまった。

「あれー?お客さん?」
「おいおい、何だこんな時間に!」
「眠れねぇんだってばよ!おじゃまー!」
「あ!こらナルト!」

どうやらイルカの静止する声も聞かずに部屋に向かって来る者が居るらしい。
カカシの目の前にアカデミー生らしい金髪の少年が姿を見せた。

「あれー?おっちゃん誰?」
「こら!ナルト!」

ゴツンッ!と少年の頭にイルカの拳が落ちる。

「いってぇーー!」
「お客さんに向かって“おっちゃん”とはなんだ!失礼しました、カカシさん。」
「あ、いやいや… ははは。」

よく泊まりにくる奴とは、このナルトという少年か。

「ふーんだっ。」

殴られて頭に来たのか、ナルトはニヤリと笑うとカカシの前で白い煙を上げて変化した。

うっふーんv お色気の術v

「 ……」

なるほど、やる事が子供だな。 て、子供なんだけどね。
あれ?この金髪ツインテール… 


顔色も変えずに冷静に女人変化したナルトを見ていると
「お、お前いい加減にその術やめろ!せめて着衣の状態にしろ!」と
変化したナルトの脳天を力いっぱい鷲掴みにしたイルカが、赤い顔でそっぽを向いた。

「イテテテテテ!せんせー頭イテェ!」
「なら、元に戻れ!ばかもの!」

ボゥン!と金髪ツインテールが金髪ツンツンヘアーに戻る。
イルカは鼻血が出たのか鼻栓をしていた。

「すみませんカカシさん!こいつ俺の生徒でして…。お見苦しい物をお見せしました!」
「あー… いやぁ、ハハハ。目の保養をさせて頂きました。」

この子だ。 と、カカシの胸の中の霧が晴れた。
昨夜の金髪ツインテールは、紛れもなくこのナルトだったのだ。

「ナルト君は先生の所によく来るのかな?」
「昨日も来てやったんだってば。おっちゃんは誰?」
「俺は…今日先生と知り合ったばかりの」
「カカシさんとおっしゃる方だ、おっちゃんはやめろナルト。」
「ふぅん?それよりさ、テレビ見ていーい?心霊特集やってんだけど。」

勝手知ったる他人の家なのだろう。
ナルトは返事も聞かずにテレビを点け、見たい番組に変えた。

「お前も好きだよなぁ、こんな番組。ははーん、一人で見るのが怖くて来たってわけだな?」
「!違うってばよ!眠れねーし、一人で見てても面白くないからな!」

二人を見ていると、先ほどまで感じていたドキドキ感が
ほんわかと暖かい物に包まれて、ほっこりした気分になってきた。
なんと言うか、戦意喪失?(襲うつもりもなかったが)

「イルカ先生、俺帰りますよ。その子に夜食でもあげて泊まらせて。」
「あ!すみません!誘っておいて…」
「いえいえ。…またお会いしたら、その…また一緒に飲みましょうね。」
「はい!喜んで!」

カカシはイルカの腰にまとわりつくナルトの頭をひと撫ですると「じゃあ」と言って
玄関外まで送り出してくれたイルカに時々小さく手を振りながら近くの角を曲がった。

『やれやれ… そうか、あの子が昨夜の正体か。』

イルカの温かみに引き寄せられるのは自分だけではないという事を知る。
こいつはうかうかして居られない。
一人で「うん。」と何かを決意して、遠回りをしながらイルカの隣の部屋へと帰った。





「何?風呂が直ったってのに戻らない?」
「ええ、あそこは引き払います。今の中忍アパートにそのまま住もうかと。」

キョトンとする綱手の前で、カカシはニコニコとご機嫌顔だ。

「元の俺の部屋は他の奴に貸してやってください。」
「中忍用だと何かと不便はないのか?」
「俺には丁度良いくらいです。住んでいて安らげる方が任務も捗るというもの。」
「ふん、本当だろうな?まあいいさ、何が気に入ったのかは知らんがサッサと引越しな。空き部屋を待ってる上忍も少なくはないからな。」

カカシは深々と頭を下げて執務室を後にし、早速引越の準備を始めた。


***


何も無かった部屋に、机やベッドが運び込まれカーテンも付けて
最後に窓辺の桟に観葉植物を置いた。
もう気配を潜めて暮らすことはないのだ。
今日 イルカが帰宅したら引越しの挨拶に行くつもりだ。驚く顔が見たい。

『引越しの挨拶に銘酒も一本買ってある。もちろん一緒に飲む為に。』

階段を登る音と隣の部屋の鍵を開ける音がする。
忍者ベストも脚絆も着けていないラフな格好で
カカシは酒を抱えて部屋を出ると、すぐ隣の部屋の扉の前に立つ

 ピンポーン

「はーい。」



これからカカシの恋が走りだす。











 



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