※カカイル短編3※

□サプライズ
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カカシが長期任務から里に戻ったのは二ヶ月ぶりの事だった。
とある町の潜入捜査で、二ヶ月間も愛しい恋人と離れて暮らしていたのだ。

『遠距離恋愛と言うか単身赴任と言うか…。』

里の大門を通り抜け、報告書を届けに火影の元へと足を向けたのだが
検問所に座っているイズモとコテツが小競り合っているのが目についた。
何やらコソコソと小さな声で言い争っているようだ。

「教えてやれよ!」
「言っちゃダメなんだって!」
「可哀想じゃんか!」
「二人の問題だろっ!」
「疲れてんのに余計ガッカリするって!」
「逆に笑えるって!癒やされるって!」
「あれがか?」
「 何が笑えるの? 」
「「  わあっ! 」」

突然現れた目の前のカカシに、イズモとコテツは抱きあうように驚いて見上げた。

「カッカカシさん!お帰りなさい!」
「長期任務ご苦労様でした!」
「うん、ありがと。で、何を言い争ってんの?俺に何か言う事でも有るの?」

教えてやれよ とか聞こえたからだ。

「え?俺達何か言ってました?」

コテツの目が明後日の方向を向いている。

「カカシさんの事じゃないですよ?」

気のせいかイズモの顔色も悪い。

「 ……あ、そ。」

カカシは怪訝そうな顔を見せながらも
ここで時間を取って帰るのが遅くなるのも馬鹿らしいから放っておく事にした。
そうして 報告書を出すと早々に、愛しい人が待つアパートへと急ぐ。
その足取りは軽く、顔も自然と綻んでしまう始末だ。
本当ならば瞬身を使ってでも早く彼の顔を見たいところだが
このもどかしさも帰った時の歓びを増幅させる要因のひとつとして楽しむ事にした。

「先生ただいま!」

玄関ドアを開けて入るなり、元気良く部屋の奥へと声をかける。
すると間もなくしてトタトタと近づく足音が。

その音を耳にしながら任務用のサンダルを足から外し振り返る。

「先生ただい…ま… え?」
「お帰りなさいですカカシさん。」

見ると大きな白いマスクをしているではないか

「先生風邪ひいたの?」

心配すると共に、これでは“ただいまのキス”も出来ないのかと少しがっかりもした。
すると、そんなカカシの心配も余所に

「ふっふっふ… ちょっとしたサプライズですよ。」

イルカがニンマリ(口元は見えないが確かにそんな感じ)としながらカカシを見て言うではないか

「なんだ風邪じゃないんですね?良かった。 って、サプライズ?」
「丁度カカシさんが出立された夜に、ふと思い立った事が有りまして…今日に至るってとこです。」
「 ??? 」

イルカは時々 天然な性格も有るのか、ちょっと変わった事をしたがる時がある。
アカデミーに通っていた頃は、ナルトの事は言えない悪戯っ子だったとも聞いている。
そんなイルカが今まさに“カカシを驚かせよう”“いや、絶対に驚くぞ?”と言った
まさに悪戯っ子独特の目の輝きを見せているのだ。

「えーと… では風邪じゃないのならお帰りのチューくらいして貰えるの?」
「したいですか?したいですよねぇー?」

プププ…とマスクの上から口元を手で抑えながら肩を揺らすイルカに
カカシは半分呆れながら、そして半分は“可愛い”と思いながら

「したいですよ、二ヶ月ぶりの先生だもの。ゆっくりじっくり味わわせて。」

イルカの顎に手を添えて顔を近付け、先程から気になる白いマスクを間近で下ろした。

「 イッ!! 」
「プーッ!アハハハ!カカシさんが驚いたー!ハハハ!」
「イルカせんせぇ〜…。」

イルカの鼻の下に二ヶ月前には無かった口髭が…

「もーう!驚かすなんて酷いですよ!取ってくださいよ、そんな物。」
「取れないんだなぁ、これが。」
「え?ちょっと待って先生。まさか地毛…」
「ふふふ…この髭はカカシさんが任務に出た日から伸ばし始めたモノなのです。」

カカシは軽く… いや、結構ショックを受けていた。
イルカは大好きだが“男”は勘弁だ。
とにかくイルカ以外の男は只の男であって間違っても性の対象にはならないのだ。
だから相手がイルカと言えど髭なんぞ生やされた日には、いろんな所が萎える。
気持ちも体もいろいろと、だ。

「ぶ…無精髭なら何とも思わなかったけど、口髭…」

そして改めてマジマジとイルカの顔を見る。
顔って言うか 髭を見る。

「 …ぷーーーっ!! 」
「あ、笑った。何なんすか その笑いは。」
「あ、いやごめん。えーと、ですね」
「笑いを堪えながら話さんでください。」

先程まで笑っていたイルカが、今度は笑われている事にカチンと来たらしく
少し機嫌が悪くなってきたようだ。

「せんせー何故チョビ髭?二手に分けたチョビ髭… あ!先生のお父上の?」
「そーです!俺は一度父ちゃんの様な立派な髭を生やしたかったんです!男のロマンです!」
「でもお写真で拝見したお父上は先生より若干厳つい…もとい、勇ましい顔をされていましたが…」

イルカは優しい顔立ちだし、可愛いんだから…
だから髭は似合わないから、やめてくださいと言うと

「サプライズは成功したと思われましたが、そんなに拒否されるとは思いもしませんでした。」

と、イルカは益々口を尖らせるばかりだった。

「そうか、カカシさんはどんな俺でも愛してくれる方だと思っていたのに…残念です。」
「ちょっと待ってよ先生、俺はどんな先生でも愛するよ!」
「ではお帰りのキスをどーぞっ。」
「 う…はい… 」

目を瞑り、口を突き出すイルカは可愛いのだが
如何せん その付き出した唇の上にはちょび髭…

これは仮装。 先生は仮装しているの。
この髭は付け髭。 取ればいつもの可愛い先生なんだーよ。

  チュッ

「…いつもより随分と軽いキスで、随分と短いキスでしたね。」
「う… 先生…やっぱり無理。髭が俺の唇付近に触れると萎えますぅ〜。」

シクシクと悲しんで見せる。

「…仕方無いなぁ。でもやっと最近になって形も整って来たのになぁ…。」

カカシは、ふと思った。

「ところで俺以外の他の奴らの反応はどうなんです?その髭は賞賛されています?」
「剃れって言われます!アハハハ!でも俺は世間の冷たい風には負けない。」

いやいや 皆の意見が正しいでしょう?そこは折れようよ先生。

カカシは先程のイズモとコテツを思い出した。
教えてやれよ…だの 二人の問題だろ…だの 笑える…だの。
この事だったのだ。
自分が留守の間 イルカの奇行は里の皆を戸惑わせていたに違いない。

『先生には悪いが、先生が髭を伸ばす事は奇行と言えるほどの出来事なんですよ〜。』

「…今すぐ剃らなきゃダメですか。」

眉を鉢の字にして上目使いで口を尖らせて言うイルカにキュンとするものの
やはりその髭で少し萎える。

「そうだ、いい事考えました。」
「何ですか?」
「その髭、あと一週間は伸ばしていていいですよ。」
「一週間?ホント?」
「はい。でもその代わり…」

カカシはイルカの頬に片手を添えて、親指で髭をソっと撫でながら言った

「この髭は俺に剃らせて。」
「カカシさんが剃ってくれるの?」
「うん。来週の俺の誕生日の余興として。」
「俺の髭剃りが余興ですか。」

もう一週間はこのままで居られる…と
イルカはカカシの提案を承諾した。

そしてカカシは頭の中で
今夜から一週間、夜の営みは真っ暗闇の中でするしかないと
悶々と悩んでいたのである。


イルカのチョビ髭の命は一週間後のカカシの誕生日までとなったのである。












 

 



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