※カカイル短編3※

□雪道たどれば
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木の葉の里に少しだけ雪が積もった。
朝起きてカーテンを開けると
外の景色は真っ白。 銀世界。

『銀世界か…』

あの人の色。 あの人の白銀の髪の色。
俺の憧れの上忍、はたけカカシの髪の色。

『いや、憧れ…なんてものじゃないか。』

自分の内にある密かな思いに苦笑しながら
漸く室内の寒さにぶるりと身を震わせ
押入れの行李(コウリ)の中から、どてらを取り出し袖を通した。
近頃寒かったので出して置いた炬燵に入りながら
朝飯のカップラーメンを食べつつテレビを見る。
天気予報が当たり、本当に雪が降り積もって喜ぶのは子供達だけで
これ以上に積もった日には、大人達は雪かきに大わらわとなるだろう。

『あ…。』

カップラーメンを食べ終わって、ふと足りない何かを思い出した。 それはミカン。
ミカンだよ!ミカンでしょう!
冬は炬燵にミカンだろ!
雪が降ったらミカンだな!
何故かそう決めていた俺としては、今ここにミカンが無い事に納得が行かない。
て、言うか 買っとけよ俺。
普通の店なら開くには随分と早い時間だが、里外れの小さな青果店は年中無休で
早起きな婆ちゃんが店先に数少ない商品を並べて開けているはず。

『売上協力だ!いつも中央の商店街程の売上げなんて無いって言ってるもんな!』

たまの里内巡回で立ち寄ると、御茶を振る舞われ長い話の相手をしている俺だ。
ただ残念ながら果物は食べる機会も少ない俺だから、普段は忘れがちな店でもある。
早速長靴を履いて、どてらの中で身を縮めながらマフラーに顎を埋めて店へ向かった。

週末のせいか寒さのせいか、まだ人の姿は僅かで
少ない積雪に雪かきをしている人も数える程度だ。
でも新雪の上をサクサクと音を立てて歩くのは大好きなんで
俺は寒い寒いと呟きながらも、小さな青果店のある里外れまで
楽しみながら足跡ひとつない白い道を歩き続けた。

『おや?』

途中から誰かに付けられた足跡発見!ちょっとガッカリ。
しかも その足跡は自分の進行方向と同じ方へ向かって付いている。
誰かが先を歩いて行っている。
そこで足元ばかりを見て歩いていた俺は顔を上げて足跡の先を見る。

遠くに人影。 しかも揺れる白銀の頭。

『うおっ!カ…カカシさん?』

紛れもなく、前を歩くのは憧れの… 俺の大好きなカカシさんだ。
思わずピタリと足の動きを止めてしまう。
何処かに出かけるのだうか?それとも任務?それとも… 朝帰り?

朝帰りと考えたら、胸がズキンと痛んだ。
いいじゃないか彼はモテるし。
彼女の一人や二人居ても可笑しくはないのに…

新雪の上に残る彼の足跡
いろんな思いで見つめて、再び顔を上げた時には彼の姿が見えなくなっていた。

「 … 」

兎にも角にも、自分の行き先も同じ方向なので前に進む事にする。

サクッと。 残された足跡の上に自分の足を置いて

「クスッ」

と、笑いを零しながら 更に次の足跡の上、次の… と
カカシさんが歩いて残した靴跡を、大事に大事に…踏み締めるように先へと進む。
靴のサイズは同じくらい。 歩幅は少しだけ俺より広い。 足先は気持ち外向き加減かな。
足跡を辿って垣根を曲がる。彼は何処まで行くのかな。
この先は青果店も有るというのに。

「 うっ! 」

下ばかり見て歩いていた俺は、垣根を曲がって直ぐに誰かとぶつかった。

「すっ、すみません!」

慌てて顔を上げると

「 ! カカシ…さん。」
「おはようございます、イルカ先生。」

ニッコリ笑うカカシさんが。

「…俺の足跡を辿ってきた?」
「あ…えーと…。」

鼻傷を掻きながら、ついついエヘヘと観念をして白状した。

「たまたま俺の行き先に足跡が有ったのです。」

だから、先に付いていた足跡の上を、雪よけになるから辿ってきたわけです。

「するとその先に俺が居たってわけですか。」
「はい!そうです!」

再びエヘヘと笑うと、カカシさんはフワリと笑い
「それは… 嬉しいです。」と小さく呟くように言った。

なんだろう。何故だろう。俺達モジモジしてないか?
白い雪の上で向き合って立って、俺は彼の胸元あたりを見たままでいる。

「ところで先生は休日の朝早くに、どちらへ?」

カカシさんの言葉にハッと我に返って顔を上げた。

「俺はミカンが…こ、炬燵にはミカンなんで!この先のウメさんの青果店へミカンを買いに。」

などと、訳のわからない説明をする俺に カカシさんは普通に応対してくれる

「偶然ですねぇ、俺もミカンを買いに。」
「 え? 」

行き先が同じなので歩きながら話をする事にした。
聞けば亡くなられたお父上が、冬には必ずミカンを食べたがっていたから
雪が積もったのを見てミカンを買わねばと思ったそうだ。

「イルカ先生の家には炬燵が有るんですか。良いですね。」
「カカシさんの家には無いのですか?」
「残念ながら。でも父と一軒家に住んでいた頃は有りました。 …懐かしいな。」

考えてみたら、こんなエリート上忍の家に炬燵が有るはずがない。
炬燵でぬくぬくしているエリート上忍なんて想像つかない。でも見てみたい。

「俺は炬燵でミカンを食べます。それが王道です。」
「ですよねぇ…。羨ましい。」
「あの、他にお約束が無ければ俺んちで買ったミカンを食べませんか?お茶くらいお出しします。粗茶ですが。」

俺にしては思い切った誘い文句だった。
嫌なら嫌でも構わないんだ。
こんな野暮ったい中忍の部屋になんて好き好んで来る上忍なんて居ないだろうから。

「行きます。お邪魔していいんですか?」
「へ?来るんですか?」
「え?やっぱり駄目なの?」
「あ!いえ!だって断られるかと!」

ドキドキした。 どうしよう!マジか!

「誘っといてなんですが、き…汚い部屋ですよ?」
「汚かろうがなんだろうが、炬燵にミカン。それに先生が淹れてくれたお茶が飲めるなら…。」

カカシさんが言い終わる前に、目的の小さな青果店が見えてきて
「あ!開いてますカカシさん!」と声をかけてしまったのだが
カカシさんも釣られて「ミカン買えますね。」と微笑んだ。



その後 雪道に二人の足跡を付けながら
お互いミカンが入った袋を抱え、サクサクと炬燵の待つ部屋へと帰る。



今年の冬が、いつもより暖かく感じるのは何故だろう。
それは目の前で炬燵に入りながら幸せそうにミカンを食べる人のせいかも。









 



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