※カカイル短編3※

□春が来た!(前編)
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アカデミーも休日の今日
イルカは午後の受付けに座っていた。
しかしそれもあと僅か。
外も夕闇に包まれ、そろそろ交代時間が迫ってきている。
そして報告書を出す者も一度途切れた頃、タイミング良く交代の者がやって来た。

「お疲れさん、イルカ。」
「おう。勤務時間の交代ありがとなソテツ。」

本当はこれからがイルカの勤務時間だったのだが
今夜はアカデミーの仕事を家でやってしまいたく、ソテツに時間を交代して貰ったのだ。

「あ、そうだイルカ。来週末に飲みに行かないか?ゴウセツさんが久しぶりに皆で飲もうって。」
「お!いいなぁ、行くか!」

イルカは飲み会を楽しみに、受付けをあとにした。





約束の週末は、アカデミーも休みだし受付も当番にはなっていなかったので
朝からイルカは張り切っていた。
夕方から飲みに出るので、部屋の掃除も済ませ溜まっていた洗濯も済ませ
昼にはインスタントラーメンを食べて腹を満たした。

『給料後だしなぁ。久しぶりの飲み会だ。何食おう。』

夕方までにはシャワーも浴びて新しい忍服も下ろした。
野郎ばかりの飲み会だと言うのに、気合の入っている自分に独りで笑った。
今日集まる仲間は皆 気が置けない楽しい奴らなのだ。
そうして日も暮れる頃、部屋の鍵を閉め
イルカは木の葉歓楽街へと足を向けたのだった。


「乾杯!」
「久しぶりにこのメンバーで飲むよな?」

なかなか皆のスケジュールが合わずに「また飲もうな!」と約束してから早くも半年近く経っていた。
アカデミー勤務はイルカの他に二人、
上忍、中忍で里外任務の多い者が二人、情報収集に携わり偶に受付に座るソテツの合計六人。
明日をも知れぬ忍者稼業。数ヶ月ぶりに見る無事な姿に皆安堵する。

「ゴウセツさんは頼りにされているから里外任務が本当に多いですね。」
「イルカの“教師が板に付いてる”のと同じ様なものだろ?俺は里外で暴れてくるのが板に付いてるのさ。」

ハハハ!と豪快に笑うゴウセツは、歳も上で上忍であるにも関わらず
イルカ達と飲み屋で知り合い意気投合してからの飲み仲間であった。

「いやあ!愉快だ!」
「おーい!酒追加だ!」

お互いの近況報告を話したかと思えば、恋愛の相談事や下ネタや…
とにかく楽しく時間は過ぎる。

「………」
「?ソテツ?大丈夫か?」

ふと隣りに座るソテツを見ると、ボーッと盃を見たまま黙り込んでいるではないか。
しかしイルカに声をかけられるとハッと気付いたように顔を上げ

「あのさ、ちょっとゲームしてみない?」

と、突拍子もない事を言い出した。

「ゲーム?」
「お!?なんだ?何をするんだ?」
「おいおいソテツ!王様ゲームとかやめろよ!女の子もいねぇしな!」

ワハハ!と笑いの起きる中、ソテツがスッとどこぞから六枚のメモ用紙を目の前に置いた。

「これから店に入ってくる人の髪の色をこれに書いて当てるんだ。ハズレた奴は…罰ゲーム。」
「髪の色?」
「ああ、書き終わった後… 来店客 三人目の髪色にしよう。」

ソテツが店員を呼び、ペンを六本借りた。

「罰ゲームって何だよ。ここの支払い全額持ちなんてやめてくれよ?」
「誰が罰ゲーム決めんの?」
「ん〜… 言い出しっぺの俺。俺がハズレたら、隣のイルカが決めてくれ。」
「!まあいいけど?」

メモ用紙を配り終わり、何故か急に始まったゲームに誰も何も文句を言わず参加した。

『…髪の色、か。』

イルカの脳裏に、フッと銀色が浮かぶ。

『銀色…。 は、無いな。』

イルカの知っている銀色の髪と言えば、光にあたると白く煌く白銀の…

「ソテツ?そう言えば先週交代してくれた晩に、カカシさん来たか?」
「はたけ上忍?うん。」
「だよなー、失敗した。今度里に戻ったら飲みに誘うからって言われてたんだ。」

これまでも何度か誘われ飲みに行き、先日戻った任務前にも
「帰ったらまた誘いますよ、行きましょうね。」覚悟しといてと笑いながら言っていた。

『ああ… 俺が受付に座っていたら誘われていたかも…。』

少し残念な気がして小さく溜息を吐いた。
だが その後も今日に至るまでカカシには会っていないどころか顔も見ていない。
すでに他の任務に出ているのか、それとも休日でも貰っているのか…

『それにしてもゲームだなんてソテツの奴も珍しい事を…』

イルカは紙に「茶」と書いた。
里には色々な髪色の人が存在するが、茶や黒が一番多いからだ。

「よし、みんな書き終わった紙を出せ。これから三人目の髪の色だぞ?」

皆 一斉に戸口を見る。
それぞれが書いた髪の色の者が入ってくるよう祈りながら。

「これって、当たれば何か良い事あるの?」
「今日の飲み代を他のメンバーで割って出してやるってのは?」
「いいねぇ、それ。」
「外れた奴はソテツの言う罰ゲーム。」
「お手柔らかに頼むよ。」

カラリ… と引き戸が開くと、一人目は栗色で二人目が海老茶色だった。

「二人組かよ…。」

そして閉められた扉が再び開いて入ってきたのは

「黒だ!真っ黒!」

やった!と小さく叫ぶ三人と、ガッカリするハズレ三人。
もちろんイルカもガッカリ組だ。

「あ〜… 黒と迷ったんだよなぁ。」
「イルカの感も当てにならんからなぁ!ははは。」

三人の勝者は今日の飲み代がタダになったせいか「ビール三杯頼むっ!」と、こぞって店員に声をかけていた。

「おいおい、手加減してくれよ?薄給なんだからさぁ。」
「このジョッキで終わりにするさ。」
「ところで罰ゲームは何にする?」

皆がソテツに注目すると、彼はニヤリと笑みを浮かべ「愛の告白」と口にした。

「負けた三人は、明日の朝一番に職場で会った人に愛の告白をするんだ。そして交際したいと。」
「おいおい、勘弁してくれよ。俺、明日は野郎ばかりの任務で大門前集合なんだ。」
「当然言うだけ言って“冗談でした、罰ゲームなんだ”って言えば良いことさ。」
「ああそうか。はあ〜良かった。」

それを聞いてイルカも安心した。
しかし明日アカデミーへ行って、先に会うのが若い女の先生だったら
逆に失礼な気もしないでも無い。

『雀先生とかエビス先生とか、冗談が通じそうもない人にはタネを明かせば呆れられるか叱られそうだ…。』

いづれにせよ、まともに愛の告白なんてした事もないので
イルカにとっては試練とも言えよう。

「お前ら、ちゃんと告白しろよ?今から俺の術式を付けるから手首出して。ほら。」
「え?そこまで念入り?」
「たりめぇーだろ?約束破られたら罰ゲームにならんからなぁ。」
「勝った奴の支払いするだけで、既に罰ゲームじゃんかよ。」
「ま、次回頑張りましょー!」

ハハハと笑い、負けた三人の手首に「告白したら消える」らしい術式を付けた。

「ソテツも変わったことするなぁ。ゲームだなんてさ。」
「女もいねぇんだから、たまに刺激が欲しいだろ?お遊びお遊び!」

飲み会は楽しかったが、明日の「愛の告白」を考えると
気が重くなるイルカだった。






前編 終わり



 



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