∞シリーズもの3∞

□優しい上忍
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最近 里に居る事が多くて
俺は待機所で本を読んでばかりいた。
が、それも飽きると上忍仲間と連れ立って里内を巡回してみたり
演習場で技の磨き合いをしてみたり
それなりに平和かつ充実した日々を過ごしていたのだが
そんな日々の中、ひとつだけ… いや、一人だけ
俺をイラッとさせる奴がいる事に気が付いた。

忍者学校の教師にして受付の癒やしの天使
その名も「うみのイルカ」二十六歳、独身。
とにかく最近やたらと目につくうえに見ていてイラッとする事ばかりで不快なのだ。

「ねえカカシ?嫌いな風なのに、随分と彼の事を調べているのね?」

甘味処で餡蜜を食べながら、同僚の紅が聞いてきた。

「お前が人をそんなに気にするなんて珍しいな。」

紅の横に座って煙草をふかす髭…アスマも聞いてきた。

「気になんてしてないって。最近遭遇率が高いの!で、そいつったら、なんかノロマでイライラするんだよね。」

昨日なんてさ、校庭で生徒が投げてきた水風船を避けきれずに水に濡れてさ
なのに、アハハハ!とか笑って「やりやがったな!」なんて生徒を追いかけたりしてるんだよ?

「それって、生徒と遊ぶ為にワザとぶつけられたんじゃない?」
「違うね!」

この前なんてさ、抱えきれない程の資料を両手で持って
ちゃんと前が見えているのかいないのか、ふらふらと渡り廊下を歩いていたんだよ?
同僚からコレも頼むアレもついでにって頼まれた物が殆どなんだよ?
バッカじゃないの?って思うよね!

「…ちょっと待てよ。なんでそれが頼まれた物だって判るんだ?」
「危なっかしいから声かけてさ、半分持ってあげたんだーよ。上忍の優しさ?」

ふんって、笑うと「なに悦に入ってるのよ。」と紅が茶々を入れてきた。
悦に入ってるって何だよ!

「イルカ先生を嫌いなのかと聞いていたら、そうでもないじゃない。」
「別にね、嫌いとかそんなんじゃなくて見ていてイラつくの!」
「じゃあ見なきゃいいじゃない。」

紅と同時に「見なきゃいいじゃないか。」とアスマの髭野郎も同じ事を言った。

「見てるんじゃないの!アッチがフラフラと視界に入ってくるの!最近遭遇率が高いって言ったでしょ!」

誰が好き好んで あんなモッサイ中忍男を見なきゃいけないのさ!
確かに笑顔は評判通り可愛い… じゃなくて!爽やかかもしれない。でもね

「目に付いたからには助けてあげなきゃね、弱者を。それが同じ里の仲間ってもんだろ?」

ふふん!優しいだろ俺?

「弱者ねぇ…。イルカ先生なら少しは知ってるけど、彼って結構たくましいわよ?」
「俺も少しは知ってるぜ。親父が可愛がってるしな。勤勉家で優しい奴らしいぞ?」

え?お前ら何なの?あの男を知ってるの?

「く、紅!たくましいって…な、何でそんな事知ってんのさ!どういう関係だ!イヤらしい!」
「たくましいって、体は知らないけど精神的にって意味よ?」
「アスマっ!三代目が可愛がってるって何だよ!ヤーらしいな!御稚児さんか!」
「ちょ、落ち着けよカカシ。何興奮してんだよ。親父は普通に我が子のようにだな…」
「うるさい髭!」

俺だって少しは知ってるんだーよ?身長は俺より三センチ低いとか!
混ぜご飯が苦手らしいとか!
木曜の“一楽サービスデー”には必ず仕事帰りにサービス餃子三個付ラーメンを食べて帰るとか!
日曜日には必ず御両親の墓参りに行っているとか!
あ!知ってるかお前ら?彼の御両親、父の名はイッカクさん、母がコハリさん!
それにね、冷蔵庫には牛乳を欠かさず置くようにしているんだよ!

「……」
「カカシ… 気持ち悪い。」
「 は?何が? 」
「どうして彼の冷蔵庫事情まで把握してるのよ。」
「そっ、それは前にコンビニで、たまたま遭遇した時に“冷蔵庫に牛乳は欠かせないですからねーハハハ”なんてレジの人に話してたから…」
「御両親の名前もよく知ってるな。調べたのか?」
「ちっ!違っ!馬鹿じゃないの髭!ちょっと墓石に書いてある名を見てみただけだし!」

あれ?なんだよこの二人。溜息なんて吐いちゃってさ。
なんか俺を馬鹿にしてる?

「優しーのねぇ…カカシ。」
「ホントになぁ… 好きな奴には…」

あ?最後に小声でなんて言った?アスマ。

「あら、噂をすれば。」
「 !! 」

ゲッ!うみのイルカ!何故この店に!?

「すみませーん。串団子十本ください!みたらしが五本と餡が…」
「よお!イルカ!元気か!」

ゲゲッ!何故声をかけてしまう!?アスマの馬鹿チン!

「!!あ!アスマさん!紅さん! …えっと…」
「 !! 」

え?何故俺の顔見て誰だっけって顔すんの!?

アンタねぇ!って言おうとした時に思い出したらしく、奴の口が開いた。

「先日は!先日は資料運びを手伝ってくださってありがとうございました!えーと…」
「コイツは“はたけカカシ”ってんだよ。覚えてやってくれ。」

なによ!なんで髭の奴、クククって肩で笑ってんのよ!
あ!紅までなんで!

「カカシさん…ですか。先日は俺も名を名乗りませんでしたね、すみません。うみのイルカと言います。」

きゃー何その笑顔!俺を誑(タラ)そうったって、そうは行かないんだからね!

「カカシ、お前大丈夫か?」
「ちょっとぉ、顔から湯気出そうなくらい赤いわよ?」

何言ってんの?なんか外野が俺に話しかけてるみたいだけど。何言ってんの?
それより…

「な、なんで団子を十本も食うの!」

忍として甘い物の摂り過ぎは体に良くないという事を、この中忍に教えねば!

「あはは、ジャンケンで負けて今日は俺の奢りで同僚達の分も団子を…。」
「はあ!?何それ!バッカじゃないの!なんで良いように利用されてんの?」
「え?あ、いやこれは罰ゲームみたいなもので…」
「あんたがドジでノロマな亀だからでしょ!」

お前それは言い過ぎ… とか言うアスマの声が聞こえなくもなかったし
え?て顔して半分泣きそうな顔をしたイルカ先生の手前

「俺が買います!おばちゃん!団子有るだけ持たせてやって!俺が払うから!」

と、上忍の優しさを見せつけてやった。
ふふん、どうだい。うみのイルカ!
お…俺に惚れても駄目なんだからね。
うん。ダメダメ。
どうしてもって頭を下げたら少しは考えてあげなくもないけど
て、ウソウソ!誰がこんな男と…

チラリと横に立つ中忍教師を見る

「あの…良いんですか?俺、皆にカカシさんからの差し入れだって伝えますから。」

なんて嬉しそうに笑うの。何よ、その含羞(ハニカ)んだ笑顔…

「お兄さん!お釣りだよ!要らないのかい?」
「 ! 」

別にボーッとしていた訳ではないよ。考え事してただけ。

「ご馳走様でした!ありがとうございました!」

団子の包みを二袋両手にぶら下げ、ぴょこりと頭を下げる中忍先生の黒い尻尾が跳ね上がる。
可愛… もとい、鬱陶しいなら結い上げずに切れば良いのに そんな髪。
まあ、ちょっとは似合ってるみたいだから切らなくても良いけど。

「では失礼します。」と、暖簾の外へ出ようとした先生の手首を掴んだ。

「待ちなさいよ。あんたの事だから石にでも躓いて転んで団子を駄目にしそうだ。」
「え?いや、そんな事は…」
「ひとつ持たせなさいよ。学校まで戻るんでしょ?転ばぬように監視役として…ま、代金払った者として」

一緒に学校まで行くよ。と言ったら、少し退かれたが
いーからいーからと俺の押しに負けた中忍先生は
「お気遣いありがとうございます。」と半分困った様な顔で俺に右手に持っていた団子の袋を渡してきた。

店を出る時「お熱いねぇ」「カカシ、頑張るのよv」と、訳わかんない声も聞こえたが無視だ。

「さ、行くよ。学校の前まで持ってくからね。」
「はあ…ありがとうございます。」

チラリと俺を見る目にゾクッとしたけど
ダメダメ!俺に惚れちゃあ駄目だからね!!
そんな目で見て!まったくもう!

優しい上忍なんて俺くらいよ?
他の誰にも、そんな眼差しを向けちゃイケナイんだからね!

そう口に出して言ってやりたい気持ちをグッと抑え
(余計なお世話かなと思って!)
中忍先生を学校まで送り届けた。

あーーー!本当に面倒な奴もいたもんだ!!










 



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