∞シリーズもの3∞

□労う上忍
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外は木枯しが吹いて確かに寒い。
秋もいつの間にやら終わっていて、冬になりつつあるのも判る。
特に今日は風も少し強く、遠出の任務から森を抜けて里に戻って来た奴等は
マント着用のまま受付けまで来ているくらいだ。

「受付暖かいなぁ。」
「マント脱いじゃお。うーん暖かい。」

それもそのはず
受付室内には円筒形の灯油ストーブが置かれていて
ベスト無しでも快適に過ごせる程の暖かさになっているからだ。

『外は寒いから、任務帰りの者を労う意味でもあるんだろうな…。』

だからと言って暑すぎやしないか?この部屋。
それになんなの?今日は随分と人が多くない?
特に今俺が並んでるこの列!
受付は三列に分かれてるんだからさ!
誰か空いてる列に移れよ!

「お急ぎの方はこちらへどうぞー!あ!はたけ上忍!よろしかったらこちらへどうぞー…」

俺は声をかけてきた右端受付の男をギロリと睨んだ。
なんで俺がお前なんかに指図されなきゃいけないのよ、あん?
そして次に俺の後ろに並んでいる二人組を睨んだ。

「ここまで並んどいて今更動けって言われてもねぇ?ほら、あっち空いてるよ?」
「うわははいっ!判りましたぁ!」

二人組と、そのまた後ろに並んでいた男も慌てて他の列へ移動した。
ふん。 俺の背後に立つなんて百年早いよ。
くるりと前に向き直ると、一部始終を振り向いて見ていたらしい前に並んでいる男と目が合った。

「…暑いし混んでるしでイライラするよね?」

多分、俺はムッとしたままの顔で機嫌悪そうに言ったと思う。
俺の前に並んでいた男も「す!すみません!」と足早に隣の列へ移っていった。

「はい!次の方どーぞ!」

もう少しだーね。 サッサと出してサッサと帰ろう。

「ご苦労様です。お疲れだったでしょう?」

ちょっとちょっと、報告書出す奴 ひとりひとりに
いちいち労いの言葉かけてたら日が暮れますって。
あ、もう暮れてるから夜中になる…が正しいか。 いや、そんなこたぁどうでもいいが。
なんだろね、あのノロマな中忍先生だから並ぶ奴も少ないと思って並んでやったのにさ。
ま、俺って優しいからね。頑張ってる奴には手を差し伸べたくなるのよ。うん。
てか、最初からこの列は長かったんだけどさ
あの先生の… イルカ先生って言ったっけ?
あのイルカ先生の列に並んでやろうって決めて来たからさ
並ばずにはいられなかったのよ、俺。
忍びたるもの、一度決めたからには簡単にその意志を曲げちゃいけないしね。

「あの、これ…任務先に美味い饅頭売ってたから…」
「わあ!ありがとうございます!あとで皆で分けますね!」
「あ、いや。それは君に…」
「ごちそー様っした!はいっ!次の方!」
「あ…えっと…ははは…」

何あれ。 受付に土産物?任務先から土産物なんて買ってくるの?
「 !! 」しかもよく見ると机の上には大小様々な箱やら袋が…

「お疲れ様でした。外はお寒かったでしょう?」

いや、だからさ。いちいち労ってたら…

『は!そうか!』

あの先生め、それもこれも土産物を貰う為… 計算してるのか?
あの笑顔と優しい声かけで戦忍達のハートを鷲掴みにしようって魂胆か!?

「ゲホゲホ!あ、すみません。咳出てきたなぁ…。」
「大丈夫か?風邪ひいてんのか?」
「そうかもですね。今日は朝から喉も痛かったし…」
「こ、このあと良かったら温かい物でも一緒に食べに行かな…」
「ぶえっくしょん!!あ!申し訳ございません!うへぇ、俺もマスクしなきゃだな。」

そう言いながら隣に座ってる受付の男のマスクを見ても、あんたの分まで持っていないでしょーよ、そいつ。

「いいって事よ。それより受付終わったら…」
「ぶえっくしょん!!ああ…また。」
「…大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!不備はございませんでした!次の方!」

……… 飯に誘おうとしていた男は戦意削がれて項垂れて帰ったけどさ
なんなのいったい… ここで飯に誘っても良いって事?
いや、俺は誘わないけどね。

「お疲れ様でした。寒いですねぇホント。」

こんな調子で労いの言葉をかけ続け、ノロノロと俺の番が近づいて来たんだけどさ。
先生が俺の前に立ってた男の報告書をチェックしている時に
隣の受付のマスク男が何やらイルカ先生に耳打ちをした。
いちいち…とか、時間がかかるから…とか聞こえたけど。

「はい次の方!」


 
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