∞シリーズもの3∞

□寡黙な上忍
1ページ/1ページ



「イルカお疲れ。」
「うん、じゃああとは頼む。」
「いいなぁ、またカカシさんのお誘いかい?」
「ははは… 俺なんか誘って、何が楽しいのか知らんが。」
「お前は老若男女、誰にでも好かれるやつだとは思っていたけど…まさかエリート上忍のハートまで射抜くとはね。」
「変な言い方するなよー。」

受付業務も終わり、俺 うみのイルカは急いで酒々屋へ向かった。
今日は… と言うより「今日も」カカシさんからのお誘いで二人で飲む事になっている。
考えてみれば少なくとも週一で飲んでいて
たまにアスマさん達と出くわすと、カカシさんは嫌な顔をするのだが
結局は数人でのワイワイとした飲み会になる事も多々だったりする。
今宵の歓楽街は人出も多く、もしかしたらそのパターンかもしれない。
俺としては大勢でワイワイと飲む方が好きだから良いのだけど
カカシさんは静かに飲むのが好きなのか、ちょっと嫌な顔をするのだ。

暖簾をくぐり店内に入って見渡すと、何処にもカカシさんの姿が見えなかった。

「あれ?」

まだ来ていないのかな?とキョロキョロしていると
顔なじみの店員が近付いてきて俺に声をかけてきた。

「イルカ先生、こっちですよ。はたけ上忍いらしてます。」

案内されたのは二階の襖で仕切られた畳の一室。
カカシさんは既にお通しだけで酒を飲んでいた。

「カカシさん!遅くなってすみませんでした!」
「いーよ。忙しいんでしょ?」
「申し訳ありません!」

ペコリと深くお辞儀をすれば「いいから座りなさいよ。」と静かに言ってくれた。

「イルカ先生は最初はビールだね。ビール二つと…この人に唐揚げと…あとは取り敢えず刺し身でも。」

カカシさんには敵わない。
数回飲んだり食べたりしただけだけど、既に俺の好みなどを大体把握している。
俺はカカシさんが天麩羅が苦手って事くらいしか知らないのだけれど。
それと、この人は割と寡黙な人で俺にばかり話をさせる。
たまに相槌を打ってくれたり、それはこうだからこうでしょ?なんて
仕方ないなぁって感じで意見をしてくれたりする程度。
そんな酒の席が楽しいのかって?
まあ、普通に考えたら楽しい訳もないのだが…
なんて言うか、俺はカカシさんを見ているだけで楽しかったりするんだよな。
寡黙な人って言ったけど、実は結構顔には出ていたりするんだよね。本人、気付いてないようだけど(笑)
それに態度に出ることもある。ちょっと分かる程度にね。
俺がカカシさんを本心から敬うような事を言ったりすると
「あ、そ。」とか、こっちも見ずに軽く返事をするのだけれど
見ると、顔を真っ赤にしていたりとか(可愛いとか思っちゃうんだな、これが。)
それとこんな事も
或る日「あんたご飯物好きでしょう?好きだよね?」と突然現れ何を言っているのかと思っていたら
美味しい店を見つけたって連れて行ってくれて
その店は御飯物の種類が沢山あったのだけど
「俺、混ぜご飯苦手なんです…。」なんて、頼んでくれた「本日の御飯大盛り定食」(ご飯は苦手な混ぜご飯だった)を前に言えば
想定外だった事に焦ったのか驚いたのか、青い顔して愕然としたあとに
「生意気!なに好き嫌いなんてしてんの?そんなだから亀なんだ!」って
一気にまくし立てたかと思ったら
いつの間にか俺の前にはカカシさんが頼んだ鰻重が置かれていて…。
御飯が好きだからって、御飯の大盛り定食よりは鰻の方が良いに決まってるんだけどな。
そんなふうに思いつつも「これ、カカシさんが頼ん…」と言いかければ
「俺は混ぜご飯も大好き!本当は本日の定食を食べたかったけど同じ物頼んでもアレかなと思ったし。まさか混ぜご飯だったなんてさ!」なんて
優しいんだかなんだか… 赤い顔して混ぜご飯をバクバク食べる姿を見ていたら
失敗を誤魔化す自分の生徒と姿が重なって見えて、本当にカカシさんて面白いと思ったんだ。

「カカシさん、たまにカカシさんの話も聞きたいなぁ。」

今日は初めてカカシさんに話を振った。
いいんだ。俺も大分カカシさんに慣れてきたし。

「俺の話…」

…まずかったかな。またまた顔を赤くして固まっている。

「何の目的で?」

チロリと俺を見て聞いてきた。

「何の?やだなぁ!単純に武勇伝とか聞かせてくださいよ!」

ハハハ!と笑えば 「ぶ…武勇伝…」と何やら目を瞑って考えだし

「そんな事より俺の好きな物とか嫌いな物とか、趣味とか…その…た、誕生日とか…」

そんな身近な事から聞けばいいんじゃない?なんて言い出した。
いきなり武勇伝とか言われてもねぇ。と言われると、それもそうか?と俺も思った。
でも趣味や好きな物なんて、男女交際の始まりでもあるまいに
やはりカカシさんて面白い人だなぁとつくづく思う。
てか別に俺、カカシさんの好きな物、嫌いな物なんてどーでもいーし
ましてや誕生日なんて聞いてどーすんだよって感じ。
聞いたら何かプレゼントとか用意しなきゃ気まずくなるんじゃないかな。 ま、その日は忘れたふりしていいか。

「まずはアンタから言ってちょーだい
。」
「 は? 」
「は?て何よ。なんで俺から言わなきゃいけないの?まずは中忍のアンタから言うべきでしょ?」
「あ…はい。」

て、なんだよー!俺も言うのかよー!
何?この個室って、お見合いの為の個室?
俺とカカシさんは、お見合いしてんの? そんな感じじゃないか、まるっきり。
やっぱ面白いって言うか、変わった人って言うか…

とりあえず、ビールが来たので乾杯をして、ごくごくプハーッ!て、やってから
仕方無しに俺から俺の事を話しだした。

「考えてみたら自分の事をこうして話すのはお互い初めてかもしれませんね。」

そう前置きを言うと、カカシさんはウンウン頷いて
黙って俺が語り出すのを見ていた。
黙って…て言うか、ワクワクしているのが丸わかりで俺に注目している。
この人って子供みたいな人だなぁ… なんて思えば
俺の胸が小さくキュンと鳴った気がした。

綺麗な顔した寡黙な上忍様が、案外キュートだったりする事は
勿体無いから誰にも教えない事にしておこうと決めた。










 



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ