∞シリーズもの3∞

□告白〜小鳥の恋/それから〜@
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 俺は はたけカカシに恋をしていた
 誰にも知られずに誰に言う事もなく
 それは密かに
 見ているだけの恋で終わるはずだった
 俺が小鳥になるまでは


        ***


   告白〜小鳥の恋/それから〜


        ***


目の前に広がる青い空。天高く鳶が一羽くるぅりと輪を描いている。風もそよりと暖かく、とても気持ちの良い午後だ。
雲ひとつ無い青い空、俺もあの空を飛んだことがある。
綱手様とシズネさんが開発して作った鳥人変化の薬。それで俺は小さな青い鳥に変化した。
最初は不本意ながらの変化だった。自分の体が他の動物に変化するのは何とも心地の良いものではないと思ったから。
初めて小鳥に変化した時は自分でも驚いた。気持ちの上では「鷲または鷹」になるつもりでいたから。
チャクラ量やその他諸々の作用も相まって、人により変化する鳥の大きさなどが変わるようであった。
それにしても小鳥って…。情けないにも程がある。くノ一なら分かるが、大の男が小鳥って…。
まあ何はともあれ、青い小鳥になった俺は執務室の窓から見上げる青空を飛んでみたくなった。そうして少しだけの約束で空を飛ばせて頂いた。
うん、わかる!今あそこで輪を描いている鳶の気持ちがわかるぞ!
空を飛ぶのがどんなに気持ちの良いことか!「ヒャッホー!」って叫びたくなるくらいなのだ。

「イルカ先生?」
「!!あ!すみません!ボーッとしちゃって!あはは。」

俺より数歩前を歩いていたカカシさんが心配そうな顔で振り向いていたので、慌てて駆け寄る。

「気持ちが良いものでボーッとしてました。えへへ。」
「懐かしそうに空なんて見上げちゃってさ… また小鳥に戻りたいのかと心配しましたよ。」
「あ、いえそんな…ははは。」

内心ギクリッだ。僅かながら小鳥になって飛んでみたいと思っていなくもなかったから。

「貴方の俺の忍鳥としての務めは終わったんです。終了したんです。」
「はい。すみません、分かっています。」
「小鳥のあなたも可愛かったですけどね、俺は人間のイルカ先生に傍に居てもらいたいんですよ?」
「!!…は、はい。」

カカシさんの右手がスッと伸びてきて俺の左手を取って握りしめた。
そしてそのまま歩き出す。

「誰も居ない田舎道だからいいでしょ?手を繋いでも。」
「ええ…まあ…。」

なんて言ったものの、恥ずかしくって足元しか見れなくなってしまった俺だ。顔も熱を持っているのが分かる。
どうにも慣れないものなのだ、恋人という存在に。
……恋人……そう、今カカシさんは俺の恋人。信じられないが俺の恋人。本当に本当に俺なんかの恋人。
俺の恋は一方通行じゃなかったんだ。それが分かったのはあの時…それは…
俺が鳥人変化の薬を大量に飲むという馬鹿な真似をして、深い暗闇に沈み長らく小鳥のままでいた時のこと。
ある任務でカカシさんは敵から小鳥の俺を守る為に重傷を負う。
そして今度は逆に敵に殺られそうになった瀕死のカカシさんを守るべく、小鳥から人間の姿に戻った俺が敵を仕留めた。
その後意識を失ったカカシさんは里の病院へ搬送されたのだが…俺と二人きりの時に目覚め、その時 告げられた言葉に俺は不覚にも泣いてしまったのだ。

「あなたが好きです。」

嘘だろ?って思った。でも彼の気持ちは本当だった。
だから俺も言ったんだ。俺もカカシさんの事が…って。
でも「好き」と言う前にカカシさんが分かってるよとでも言うように「うん。」って嬉しそうに頷いてくれたから最後まで言わずに終わった。
この人は何でも分かってしまう人なんだと思った。もしかして俺の気持ちってダダ漏れだったのかもしれない。

「…あのさ…恥ずかしいのなら手を繋ぐのやめる?」
「え?」

顔を上げてカカシさんを見ると今度は不安そうな顔で俺を見ていた。

「だっ!大丈夫です!さあ!歩きましょう!ははは!」

左側は山肌、そして右には水田が広がる田舎道で俺はカカシさんの手をギュッと握りしめてシャキシャキ歩き出す。けれども「もっとゆっくり歩きません?」との声に「はい、すみません…」と歩を緩めた。

「イルカ先生ってホント可愛いね。」
「なっ何を…」

言ってるんだこの人は!
でもそう言いながらクスクスと楽しそうに笑うカカシさんを見て、俺も嬉しくなってエヘへと笑った。
この田舎道で俺達は何をしているのかって?実はこれは初めての…デートらしいものなのである。
カカシさんが退院して自宅に戻ってから待ちに待った連絡があった。「会いたい」と。
お互いの気持ちが分かったところで正直どうしていいのか俺は分からなかった。
カカシさんが入院中は、ほぼ毎日の様に顔を出した。
面会時間内に行く事が出来ない時は律儀に「今日は受付業務が夜なので行けません。」とか式を送った。
別にカカシさんにそうしてくれと頼まれた訳ではなく、なんとなく毎日顔を出しているのに急に顔を出さないと心配するかな なんて。勝手にそう思って勝手にした事だ。
見舞いに行っても「病室での逢瀬」なんて艶めいた事はなく、短い時間内で俺は何かとカカシさんの世話をしていた。
時には体を拭くにも自分で手の届かない背中などを固絞りのタオルで拭いてあげたりとかもしたが、カカシさんの色の白い肌に刀傷とか発見すると何だかドキドキして困った。
当たり前だけど戦忍らしく綺麗に筋肉が付いた体は見惚れてしまうほどだった。
カカシさんの忍服の下は こんな体だったんだ…なんて思いながら彼の背後で『ぎゃー!』とか興奮していた馬鹿な俺でもあった。
そして帰り際には必ずおいでおいでをされて近づくと、おやすみのキスをして別れた。
うん。キスはしているんだぞ!ちゃんとしている!お…大人のキスってやつを!!
最初の頃より退院間近の頃のキスの方が比べ物にならないくらい濃厚になっていた。
気がつけば段々と… 徐々に濃いーキスになっていったと思われる。
最初から濃厚なのやられたら俺も目を白黒させていたに違いない。カカシさんはそこの所を考えていてくれたようだ。さすがだ。

「…イルカ先生…なにニヤついてんの?また何か考え事?」
「ハッ!あ、いえいえハハハ!!」

いかんいかん。カカシさんが呆れて見ている。
どうも俺って奴は考えている事が顔に出るようだ。
手… は繋がれたまま。カカシさんの手の温もり、大きさ、逞しさ。手甲は付けてはいるが。

「先生おにぎり作ってきてくれた?」
「勿論ですよ!一人三個ずつ!」
「え… 三個も食べるの?」
「え?…三個食べないですか?」
「あ、いえ食べられますけど。ふふっ。」

食べられ……ますけど?ますけど?え?
えーーー!?男なら普通三個くらい食べないか?え?それ俺だけ!?あ!カカシさんは戦忍だから?戦忍そんなに食わねぇか?

『ギャース!!なんか恥ずかしいぞ!?』
「あのねイルカ先生、俺はオヤツ持ってきたよ。甘栗甘の酒饅頭と草団子。先生好きでしょ?」
「!!あ、ありがとうございます。」

そうか、饅頭持ってきてんなら握り飯三個は多いかもな。俺は食えるけど。

「もう少しで着くよ。あそこの坂を登れば見えてくるんだ。」

カカシさんが言う「見えてくる」ものとは木の葉の里の事。
今日は退院祝いの初デートでも有るが、実は入院中に俺が聞いた質問から始まり決まった事だった。
それがいつになるかはカカシさんからの連絡待ちではあったが。
退院間近の晩。俺はカカシさんに再び聞いたんだ「カカシさんは、あの青い小鳥が俺だといつから知っていたのですか?」と。
彼が目覚めた日にチラと聞いた時には上手くはぐらかされた話だ。なのでその後は何となく聞けずじまいでいた。
でもやはり知らずになんて居られずに、再び質問してみたのだ。すると彼はこう言った。

「退院したらお弁当でも持って先生とデートしたいな。もちろん天気の良い日にね。」
「……教えてくれないんですね…。」
「白状しますよ、ちゃんと教えます。その時に。」
「その時に…ですか。」
「うん。約束する。先生おにぎり作ってきてね。具はお任せします。」
「わかりました。」

そんなやり取りで決まった「晴れの日の告白デート」なのだ これは。

「ほら、先生見て?」
「!!!」

里から少し離れた所に、こんな場所が有るとは知らなかった。
山の上から木の葉の里が見える。遠からず近からずな距離なので里全体が見えていた。

「あなたが小鳥の時に連れて来ようかとも思った場所なんですが、やはり此処へは人間のイルカ先生と来たかったから…。」

素晴らしい景色に呆けていた俺は隣で話し続けていたカカシさんの顔を呆けた顔のまま見返した。
すると「くっ」と彼が笑いを堪えたのが分かった。
「なっなんですかっ!/////」ムッとして聞き返すと

「だって顔っ、ポカーンとしたままで可愛いったら…くくく…。」
「むうっ。」

どうせ俺の顔はマヌケ顔ですよっ。

「ごめんごめん。でも気に入ってくれた?ここ。」
「はいっ!木の葉の里をこんなふうに見れる場所が有るなんて知りませんでした!凄いです!」
「うん、良かった。あの倒木に腰掛けましょうか。」

誰かがこの景色を見る為に置いたと思われる言わばベンチのような大木に腰かける。

「では…例の事、教えてください。いつから俺が……」

そう言い、隣のカカシさんの方を向くなり両頬に手を添えられていきなり口づけされた。

「カカ…」
「ごめんなさい。貴方とこうしてこの場所に来れて感極まりました。 …今までの事、話します。」
「………。」

カカシさんは俺から顔を離すと遠くに見える里に目をやり話しだした。

「初めて小鳥の姿のイルカ先生を見たのは…」

天高く頭上からピィーヨと鳶の鳴く声が小さく聞こえた。










 



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